8月2日*たまご*
『ふおぉぉ』
瞳を輝かせて、ボウルの中を覗き込む名前。
「めずらしいですね」
名前の驚きのリアクションに、賛同しながら微笑む草壁。
台所で、3時のおやつにホットケーキを作ろうとボウルへと割った一つの卵。
『きいろが、にこぉぉぉあるよぉ』
「双子ですね」
一つの卵を割って出てきた2つの黄身の卵を初めて見た名前は、瞳をキラキラ輝くように大きく見開いて、触ってみたいなぁ…と、ちょっと指を伸ばすものの…ぐっと我慢。
この素敵な出来事をもっともっと楽しみたい。
『てつさん、かして?』
「卵ですか?」
『うん。きょうやくんにね、みしてあげんの』
そう言うと、名前には少し大きいボウルを両手に抱え、パタパタと台所を出て行ってしまった。
「あ…転ばなければいいが…」
手にしたボウルを嬉しそうに覗きながら廊下を走る名前に、ヒバードがパタパタと飛んで近付いて来た。
『あ〜ヒバードぉぉ、みてぇ、きいろがぁねぇ、にこあんだよぉぉ』
走りながらヒバードに勢い良くボウルを掲げれば、やはり予想通りの展開が。
ぐしゃ…
『あ…ぁぁぁ』
「で、廊下に広がるこれ何?」
名前に廊下へと連れて来られた雲雀は、廊下にベッタリと広がる哀れな残骸を見下ろす。
それを、ビクビクしながら上目使いで雲雀の顔を見上げる名前。
『とね、たまごぉ?』
なぜか疑問系。
「なんだか予想がつくけど、普通卵は廊下に広がらないよね」
なぜこんな事になったのか?
『とね、きいろにこねあったのぉぉ、きょうやくんに、みしてあげようとおったらね、おっこったらね、ぐしゃぁぁぁなったの』
落としただけで、この廊下の惨劇はどう言う事だろう?
黄身と白身が混ざりあったものが廊下に広がり飛び散って、名前の手と服も卵まみれになっている。
「落としただけでこうなる?」
そう聞けば、名前なりの説明が開始される。
それによれば、落とした時は辛うじて黄身が2つあり、それをボウルに戻そうとしゃがんで手にしたが、柔らかい黄身を名前が上手く取れる筈もなく…グシャリと手の中で潰れてしまい、ショックで勢いよく立ち上がった時に、今度は白身を踏んでズルリと転んで、手の中で崩れ黄身が転んだ拍子に更に飛び散って、また立ち上がる時に、黄身がついた手で廊下にペタリと触れ、手に残った黄身をズルリと廊下に広げた。
と…いう事を、たどたどしくも懸命に伝える。
はぁ…。
雲雀のため息に、しゅんとしながら小さな声で『ごめんなさい』と落ち込む。
雲雀は大きいバスタオルを持って来ると、バスタオルで名前をくるんで抱きかかえる。
『ほえ?』
「顔も、体もベタベタだから洗わないと」
汚れた顔で『えへへ』と頭を掻き、手に付いた汚れが髪にも移る。
はぁ…。
抱きかかえた名前のおでこを、呆れ顔でコツンと指で突っつけば、名前はおでこを卵まみれの手で押さえながら、ヘラリと笑顔を雲雀に向ける。
「まったく、名前は、本当にいつも僕を楽しませてくれるよ」
えへへへ。
卵の惨劇の犯人は、楽しませてくれると言う言葉を素直に受けとめ、褒められたと嬉しそに笑う。
「褒めてない…」
『う?ちがう???お??』
また溜息を一つ付くものの、雲雀の気分はそう悪くもない。
「今度から、持って来ないで呼びに来なよ」
『うん!』
分かっているのかいないのか?とりあえず返事だけは元気な名前。
この後、汚れた廊下を、「やはりこうなったか」と苦笑しながら草壁が掃除をしたのは言うまでもない。
20100802
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