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求人情報(雲雀+10)
もふっ。

大きな豚まんにかぶりつく。

もぐもぐ…

もふっ。

もぐもぐ…

イライラした時は、何故か食欲旺盛になるから不思議。
新しい仕事場でなんだか上手く行かなくて、ストレスが溜まって我慢限界ギリギリモードに到達してしまった私は、愚痴を聞いてもらいたくて、幼なじみであるツナの所へ、ただ愚痴を吐き出すだけだと…ちょっと悪いかなと思って、お気に入りの中華飯店の豚まんを幾つか買ってお土産として持参した。
が、運悪くツナは不在。
まぁ連絡しなかった私が悪いんだけど、折角の豚まんが可哀想なのと、吐き出すはずだった愚痴が聞いて貰えなかった事で、もう限界越え。
ツナの屋敷の近くにある公園のベンチで、豚まんにストレスをぶつけるが如くかぶりつと言う現在の状態。

『もーっ!ついていない時は、とことんツイてないんだからぁ』

もふっ。
もぐもぐ…

公園で一人。女の子がこんなでどうなの?なんて思われてしまうかもしれないけど、ストレスが溜まっている私にとっては、そんな人目なんて気にならない。
それより、職場のムカつことの方が大きいのだ。

「ねえ、何してるの?」

『へ?』

私の目の前に、怪訝そうな顔をする雲雀さんが立っていた。
豚まんに集中し過ぎて全く気が付かなかった。なんたる失態。
さっきまで人目なんて気にしないと言いましたが、この人だけは例外。
だって…憧れの人だから。
でも、それは内緒。だって恥ずかしいし、こんな素敵な雲雀さんが、私を相手にするはずない。
だから、いつも意地っ張りな私は雲雀さんに対しても特別な対応はしない。心臓は緊張してバクバクしていたとしても。

『べ、別に。豚まんを食べているだけです。雲雀さんこそどうしたんですか?用事ですか?』

雲雀さんの目の前で、再び豚まんにかぶりつく。

「見回りしてたら、公園に不審者がいたから」

『不審者?』

公園に不審者がいるなんてどこだろうと、周りを見回すと、雲雀さんは私を指差している。

「不審者」

『へ?私!?私は不審者じゃありません。雲雀さんだって、私の事一応知り合いに分類してくれてるんじゃないんですか?』

「……知り合い?」

何言ってるの?って顔された。凹む…。
ガッカリする私の横に雲雀さんは静かに腰掛け、何故か私を見詰めている。(自意識過剰じゃないと思う)

な、な、何ーっ!!
止めて下さい。心臓破裂するから。
平静をたもつのにどれだけ私が苦労してると思ってるんだ!まぁ…雲雀さんに分かるわけ無いけど。

「ねぇ」

『は、はひぃ?』

妙に裏がえってしまった声。これ以上平静が崩れないようにと、小さく息を付き、何ですか?と雲雀さんに問い掛ければ、私に向け手を差し出している。

『あ、あの…?』

その手の意味が分からない。

「豚まん」

『へ?あ、ああ』

どうやら雲雀さんも豚まんが食べたかったようで…頂戴の手だったらしい。まぁ、一人では食べきれない量があるし、あげるのには特に問題ない。
けど…雲雀さんに豚まんと言うのはなんか似合わない気がする。

『どうぞ』

差し出された手の上に、豚まんを乗せると、それをモフリと頬張る雲雀さん。

な、な、なんか可愛い。
許されるなら記念に写メを撮りたいけど…そんな事したらトンファーが飛んで来そう。
自ら危険を冒す事ないから止めよう。

「なに?」

私の視線に気が付き、雲雀さんはこちらに顔を向ける。

ドキッ☆

『いえ、なんでも…ないです』

あなたが可愛いなんて言えません。
ベンチに座り、二人並んで黙々と豚まんを食べる。
この図なんか変。

「何かあったの?」

『へ?』

雲雀さんからそんな事を聞かれるなんて思わなくて、豚まんをかぶりついたまま動きが止まる。
そのままじっと見詰められ、私の言葉を静かに待ってくれている?
あ、ただ勝手にそんな感じを受けただけだけど。
口の中の豚まんを噛み砕き、私は、ポツポツと新しい会社の事を話し出した。
仕事の不満や、自分の不甲斐ない事。
ただの愚痴。
雲雀さんは、私の言葉を否定すること無く、またに「ふ〜ん」とか、小さく相槌を返してくれる。
聞いてくれている間、追加の豚まんを無言で要求されたのは…もしや、豚まんは、愚痴聞き代?

そして私は総て話し終えると、

「で、どうしたいの?」

と雲雀さんは問い掛けた。

『どうって…』

どうしたいのだろう?せっかく見つかった就職先だし、辞めてしまったら直ぐに生活に困る。
だとしたら、我慢して働き続けるしかないわけで…。

『まぁ…仕方ないので、頑張るしかないのかなぁ…と思います。ただの愚痴です今の』

文句だけは一人前なんだなぁ、私って。
雲雀さんからアドバイスがもらえる訳もない。
そうだよね、頑張らなきゃ!うん。雲雀さんもそう私に伝えたいんだ。

「嫌なら辞めれば?」

『はぁ?』

な、なんとおっしゃいました?

「嫌なんでしょ?」

あ…考えてみたら、雲雀さんは我が道を突き進む方でした。
嫌なのにそこに止まって頑張れなんて言わない。

『嫌なんですけど、辞めてしまったらこの先、生活が厳しくなるし…頑張るしかないです』

「他の所に行けばいい」

『いや、ですからね、この就職難で、只でさえ何か特技がある訳でもない私は、次が簡単に見つからないんです』

う…雲雀さんに、自分の無能さをアピールしてどうするというのかなぁ。更に凹むじゃないか。

「紹介しようか」

『え?』

「転職先」

なんですと?紹介?
雲雀さんは風紀財団なる団体の代表だし、並盛周辺の権力者。
いろんな会社と繋がりがあるに違いない。
縋ってしまっていいのかな?
悩む。

『因みに…さっきも言いましたが、私、特技とか資格とかも無くて、言うなれば能力も平凡過ぎるほどですけど…』

「いいんじゃない?そんなの期待してないよ」

あ…そうですか。
そんなあっさり言わなくてもいいのに。

『その仕事、私でもやれますか?』

念押しじゃないけど、聞き返したら、少し考えるような視線と共に、観察するかの様に見詰められ、くそ〜っ。ドキドキしてしまう。無理そうなら先に言ってもらわないといけない。だって紹介してもらったのに役立たずだったら雲雀さんにも迷惑が掛かってしまうから。

「多分…適任だよ」

何故か…そう言った後、うっすらと笑った。
滅多に見れない雲雀さんの微笑み!貴重過ぎる。
でも、適任て…どんな仕事?
雲雀さんが、私に合う仕事をチョイスしてくれると言うことは、私と言う存在が雲雀さんの中でちょっとでもあるって事だよね。
凄い進歩だ。
今日を記念日にしてもいいかも。
後でスケジュールに入れておこう。

『雲雀さん。是非紹介して下さい。えっと…その会社はどこにあるんですか?紹介と言ってもやっぱり、面接みたいなの位あったりしますよね…。あ、連絡先を…と言っても急に今聞いても分かりませんね。すみません、慌ててしまっ…ん?』

焦りながら話せば、雲雀さんは私の前に手を差し出している。
あ…豚まんの追加要求かな?でももう無いんだけどなぁ。

『すみません。豚まんもう無いんですけど…次の時に、また違うお礼を持って行きますので…ん?』

雲雀さんは何故か…表情を険しくしている。

「違う」

『えっと…違うとは?』

「手」

ん?なんだろ?手?えっと…お手?犬?

取りあえず差し出された手の上に、自分の手を乗せてみた。

一体何だろ?

不思議に思っていれば、私の手を雲雀さんが優しく握り締めたかと思うと…手に…手に…

チュッ。

『!』

な、何〜っ!!!!!

「採用決定だよ」

な、何が?今、何が起こって?
え?採用決定?
どこに?どこに採用されたの私?

混乱した頭は、そう簡単には正常に戻りません。
視線を雲雀さんに向けたいけど、向けられず、いたたまれずキョロキョロと視線を泳がせる。

「明日、いや、今から宜しくね」

挙動不審の私に、ニヤリと笑う雲雀さん。
「そう簡単には辞められない…じゃないな、離さないよ。やっと手に入れたんだからね」

えっと…
私の新しい就職先は
雲雀さんみたいです。


END

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あきゅろす。
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