犬と社長の午睡(こんさんより)
昼の社長室。ぽかぽかとした陽気が海馬コーポレーションの社長を襲う。
「(ねむい)」
当たり前だ。なにしろ、一週間働きづめなのだから。昨日だってふらりとやってきた城之内にもあまりかまうことができず、パソコンをうち続けなければならなかった。
ガタッと立ち上がると、自室のベッドに移動する。あの決闘の鬼もやはり人の子。くぁ、と小さなあくびをする。
三十分ほど寝るか、とベッドにしずみ込もうとした瞬間、見慣れたものが目に入る。紺色の学生服。もちろん、童美野高校のもの。そして海馬のではないのは明らかである。(仕事が忙しく、ここ二週間は学校に行っていないからだ)
そういえば昨日、城之内がベッドでごろごろしていたことを思いだし、海馬はその学生服を手にとった。案の定、白いタグのところに「城之内克也」と書かれていた。今日が土曜日で学校が休みだからいいものの、平日だったらどうする気だ、あの犬め、などといいながら、その服をベッドのわきに置いた。寝るか、とようやくベッドに沈み込む。そのまま、目を閉じた。
「…………………眠れん。」
眠気はあるはずなのに、一向に眠りに落ちる気がしない。わきに置いた城之内の制服をちらっとみる。もちろん、置いたときのまま、そこにある。
「………こんなものがあるからだっ!!」
ガッ、とつかんで床に叩きつけようとしたとき、ふわっ、と城之内のにおいがした。男っぽいにおいと、昼のお日様のにおい。ぎゅ、とつかむと、城之内が近くにいるような気がした。
そういえば昨日、奴に会ったのは何日ぶりだったか…学校で会って以来だから随分とあっておらんな……、としばしの回想。その上、おあずけ状態だというのだから、実質昨日は会っていないことに等しい。いつもは本物の犬さながらに引っ付いてくる城之内のことだ、寂しかったに違いない。
――しかし。
「…………寂しいのは貴様だけではないわ……。」
そう呟くと、自分と同じくらい上背のある恋人の制服をはおった。ワイシャツにネクタイ姿でいささか変ではあるが、どうせ誰も来やしないのだから関係ない。そのままベッドに倒れ込むと同時に目を閉じた。今度は不思議とすっと寝ることができた。
「……………ん……」
「わりぃ、起こしちまった?」
目の前に金髪の男がいる。いるはずのない、恋人。もしや寝過ごしたか、と時計をみると20分しかたっていなかった。扉が開いていたのをいいことに、勝手に入ってきたようだった。
「磯野さんが入っていい、っていうからよ…わりぃな」
ごめん、と謝る城之内。
「…かまわん。今起きようとしていたところだ。で、貴様何しにきた?」
そう言うと、城之内の方をみる。何故か琥珀色の目をまんまるにして、きょとんとしていた。
「………ん?海馬?」
「なんだ」
「……それってさぁ」
指をさす先には紺色の学生服を着た海馬。
「俺の?」
海馬の顔がボッと赤くなった。はっ、と気がつくと、城之内に制服を押し返した。
「貴様が忘れるからこんなことに…!帰れ、城之内ぃ!」
失態にもほどがある、凡骨の服を…とぶつぶつ言っている海馬の顔はさっきより真っ赤になっていて、恥ずかしさか、怒りによるものなのかわからなくなっていた。
「えー、海馬くんそんなに寂しかったのー?かっわいー」
「ええい!黙れ黙れ!」
言い返す言葉が見つからず、反対側を向いてベッドに倒れ込んだ。
「………俺も寂しかったんだぜー…」
そう城之内は言うと、後ろから海馬に抱きついた。今度はにおいだけでなく、本人もいるのを感じると心が安らぐ自分がいるのに海馬は苦笑した。こいつと出会って丸くなったものだ、と思う。未だ気恥ずかしいのは残っていたりもするが。
「城之内、」
「ん?」
「制服、貸せ」
城之内はわかった、と短い返事をすると、自分の学生服を海馬に手渡した。ばさっと自分の背中に制服をかける。
「…それ、俺のなんだけど?」
耳元でそう言うと、城之内はくつくつと笑った。
「置いていく貴様が悪い」
そう返すと、寝返りをうって城之内の方をむく。なんだよそれ、と笑うじょうのうちの顔があった。長らく会っていなかったから、この距離は久しぶりだった。
「かいばー」
「何だ」
「何でもねぇー…呼んだだけ」
じゃあ呼ぶな、と言いたかったが、フン、と鼻を鳴らすまでにとどめた。
「かいばぁ…ふぁ」
「だから何だ」
「昨日俺さ、お前ん家来たじゃん」
「ああ」
「そして夜遅くに帰ってさ、今日超早くからバイトだったわけよ」
「それがどうした」
「だからよー、眠ぃの」
「仕方がないだろう、それは」
「海馬は?眠くねーの?」
「……まあ、若干はな」
二十分程度の眠りで一週間の睡眠不足がとれるはずもなく、まだ十分に眠気が残っていた。
城之内はニッと笑うと、
「じゃあ一緒に寝ようぜ!」
と言った。そして、海馬の肩にかかっていた制服を自分の
体にもかけた。そのあと海馬をまたぎゅっと抱きしめた。
「なんか久しぶりだな、こういうの」
「………まあな」
城之内は二人で寝るとき、いつも自分を抱きながら寝てくれていた。一人で寝ると大きすぎるベッドは、二人で寝ると測ったかのようにぴったりだった。一枚しかない布団を二人で使って寝た。今日は学生服だから、少し小さいが。
「おやすみ…かいばぁ………」
城之内はあくび混じりに言うと、すっと目を閉じた。まあ、たまにはこういう午睡も悪くない。
「(おやすみ、城之内…)」
ぽかぽかした昼下がり。
二人が起きるのは、今から二時間後――。
end
ばっ
「なんだこの時間は!?」
「あれ、海馬どうした…?ふぁ」
「どうしたもこうしたもないわ!貴様のせいで!」
「ちこくー?」
「そうだ、どけ!」
「いだっ!俺のせいかよ…ぶつぶつ」
「一緒に寝るとかふざけたことを言うからだ!」
「ひっでー!」
「磯野か?今からいく…ああ…、」
「無視かよ…」
「………よし、いくか」
「かいばー」
「なんだ、もう行くぞ」
「いってらっしゃーい」
「……………フン…」
end
________
「甘い城海」でリクエストさせて頂きました!
うああああ!甘い!甘いです!!
城之内くんの服の匂いに安心しちゃう社長がもうたまらない可愛いです…!!!
幸せなオーラが振り撒かれていて読んでいて凄くほんわかしました^^
可愛らしいおまけも頂いてしまいました!^^
ありがとうございました!
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