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外伝
陶酔アプリコット


「もーダメッ、おなか空いて死ぬ!」
「死なないから歩け、もうすぐなんだから」
「ぶぅ…あ、見て見て!実がなってる!」
「はいはい…わかってるだろうけど、お前勝手に食ったり…」
「…む?」
「…」

「お前、馬鹿だろ」



『 陶酔アプリコット 』


それは町から町へ移動している最中に起こった事。
約6時間という道のりを所々休憩をはさみながら歩いていた。
その道中口にするものといったら流れている川の水くらいなもんで…
…まぁ、そんな川も頻繁にあるわけじゃないし。
そんな状況だったら、腹が減るのだって人間として自然なことだと思う。

案の定、町に着く前にユウが駄々をこね始めた。
「お腹空いた」を必要以上に連発し始め、ひどい時には口から精気が出ていた(ように見えた)。
そんな奴が目をつけたのは、青々と茂っている小ぶりの木に実っていた果実。


嫌な予感がして「食ったりするなよ」と全部言う前に、奴はその紫がかった果実を口にしていた。

あいつには、つくづく警戒心というものが無い。


「どうかなされましたか?」
「まったく、お前ら遅いって…あーあ、お前何食っちゃってんの」

ついて来ないのを心配してか、先を歩いていた2人が戻ってきた。
サンに至っては、ユウの持っていた齧った後がついた果実を一瞥して苦い顔をした。

「何、この実毒でもあるの」
「いや、毒はねーよ。…ただ、」
「勇者様!」

ムーンが声を張り上げたと思ったら、隣にいたユウがフッと、視界からいなくなった。
見れば、ふらぁっとスローモーションのように地面にゆっくりとへばっていた。
果実が手のひらから外れ、転がって俺の靴にコツン、とぶつかる。



「…酔っ払ったりするだけ」
「うにゃー…?」
「…ナルホドね」

頭がわざとじゃないかってくらいにぐわんぐわんと回っている。
あと、顔もちょっと赤い。

なんでも、ユウが口にした果実にはアルコールが含まれていて、主に酒を作る際に使われるんだとか。
ユウが酒に強いか弱いかなんて前に、俺らは未成年。
・・・大丈夫なんだろうか。


「おい、酔っ払い」
「酔ってらんかないよ!、ちょっと、ふわふわしてるらけぇ〜」
「人はそれを酔ってる、っていうんだよ」
「なにおう!やるのかこらぁー!」

腕を振り上げてブンブン回し威嚇してくる。
意味わからん。
ただでさえこいつにはいつも手を焼いてんのに、アルコールの相乗効果で更にうざく感じる。


「ほら、手。立てよ」
「あはっ、ありあと…」

手を引いて立つ手助けをし、ユウは数分ぶりに地に足をつけた。
そのままふらふらと歩き始めたかと思ったら…


ゴンッ!!

「…」

ユウは道から外れて木の幹に頭をぶつけた。
そしてそのままズルズルと降下し、へたりと座り込んだ。

「あーあ、何やってんだか…ぶふっ」
「…」
バシッ!
「いてェ!」
「しっかりしろよ」

後ろでサンが口をおさえて笑っている。
それを注意の意味を込めて後ろからムーンが引っ叩いた。
近寄ってそいつを木から引き剥がすと、あろうことかそいつは、



静かに寝息をたてていた。

「…寝てしまいましたね」
「…」

邪魔くせぇ。

ただ一言そう思った。
だが置いていくというわけにもいかないから仕方なくおぶると、寝息が近くに聞こえる。
眠っている分、力が抜けていて重い。
そんなことを本人に言おうもんなら容赦ない鉄拳が飛んでくるだろうが…今は酔って熟睡中だ。


「お2人ともよくお似合いで」
「黙れ」

からかうようにそう笑ったサンに対して、俺は短く吐き捨てるように言った。





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