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バトンで書いたもの
※スターク目線







「分かってる」
分かってるんだ。
暗示を掛ける様に自らに言い聞かせ、右手で両目を覆った。

分かっていた
藍染サマには俺以外にも沢山仲間が居て
その優しい眼差しも、暖かなぬくもりも
決して
俺だけのものにはならない事ぐらい
痛い位に分かっていた

だけどその日。
藍染サマの部屋の前で聞こえた、
誰かと藍染サマの話し声


「愛してるよ」

――その言葉と意味だけは
俺だけのものだと信じていたのに

気付いたら響転で駆け出していた。
虚夜宮を飛び出し、細く開いた眼に大粒の涙を零し、嗚咽を吐きながら砂漠を歩く。

なんでこんなに胸が苦しいんだろう
なんで俺は、あの人を好きになってしまったんだろう

力尽き、砂漠に足を取られ地面に崩れる。ぐちゃぐちゃになった頭の中は考える事を拒絶していた。
だけど目を閉じれば、何時だってあの人の笑顔が浮かんで、消えていく。

藍染サマには俺以外にも愛している人が居て。ていうかそもそも俺は遊び程度にしか見られてなくて。だけど俺は藍染サマがこんなにも大好きで。

好きで好きで死んでしまいそうなのに
俺の孤独を埋めれるのはあんただけなのに

あんたは、絶対に俺を見ない
どんなに惨めになっても
俺だけの藍染サマでは居てくれない

だから俺の孤独は決して癒されない

なんであんな人
好きになっちまったんだろう



「スターク」


何十回目の嗚咽を吐いた時、背後に立った影が俺を後ろから抱き寄せ、囁いた。
その声は夢幻にまで焦がれた、
大好きな人の声と吐息

「…あ、いぜ、ん…さま…?」

なんで。
どうして此処に。
声に出来ず唇を開閉していれば、淑やかな指先が背面から頬を撫で、涙を掬った。

「キミが虚夜宮から出ていったのを、リリネットが報告してくれたんだ」
心配したよ。そう囁く主君の温もりが、あったかい。

ああ。片割れのお節介か。
納得し、落胆した。

そうだよな。俺には藍染サマしか居ないけど、藍染サマは、俺以外にも沢山仲間が居て、愛している人だっている。
俺みたいなのを相手にするのは、慈悲だ。愛情でも恋情でもない。
忘れ掛けた涙を零すと、強く引き寄せられた。

「泣かないで」

…狡いよ。藍染サマ。
俺だけのものにはなってくれない癖に
俺だけを愛してはくれない癖に
そうやって優しくするのは狡い

「…はな、せ」

思わせぶるな
期待しちまう
いっそ突き放してくれ
そしたら、諦めれるから

「…離せよ…」

「…どうして離さないといけないんだ」

「離してくれ…」

苦しくなる
息が出来ない

「離さないよ。絶対に」

止めろ、離せ
これ以上期待したら

突き放された時の絶望が
大きくなる

抵抗したが、藍染サマの手を振りほどく事は出来なかった。
胸が苦しい。辛い。
涙を零しながら、腕の中で嗚咽と叫喚を叫ぶ。

「あんたは…俺だけのものにはなってくれねえじゃねーか…!!」

俺のものにならないなら
いっそ突き放して
じゃないと苦しくて死んでしまう

ああもう。本ト、なんでこんな人を好きになっちまったんだろう。


唇を噛み締めていれば、刹那より短い間主君が消え、気付いたら藍染サマが俺を目の前で抱きしめていた。

「…私はキミだけのものにはなれない」

ああ、やっぱり
ずきん、と。胸が明確に痛みを発する。
落涙したと同時。
だけど、と俺は続けた。

「愛しているのは、キミだけだ」

…俺以外の誰かにも愛を囁いていた癖に。
そんな優しい嘘は聞きたくない。
唇を噛み締め、男の胸板で悲壮した。

「…さっき……俺以外にも愛してるって、言ってた……」

こんな醜い嫉妬心を抱いた俺なんて、早く突き放して。
肩を震わせれば、刹那動揺した藍染サマが、優艶に笑った。

「ギンとね、キミの話をしていたんだ」

「…俺、の?」

「キミをどう思ってるのか聞かれて、愛してるって答えた。…キミはその部分だけ聞いたんじゃないかな」


まさか。全部俺の勘違いかよ。


唖然と開いた唇に、藍染サマの唇が重なる。
咥内を愛でる様に舐められ、絡み合う舌に、唾液が口端から滴った。
離れた唇が引いた糸に赤面し、自らの勘違いにまた赤面する。

「……みるな…」

嫉妬していた相手が自分自身だったなんて。とんだ笑い話だ。
真っ赤な顔をして俯いていれば、顎を持ち上げられ無理矢理目線を合わせられる。

ばかやろう。
恥ずかしいんだよ。みるな。
悪態を吐く俺をきつく抱きしめた藍染サマが、笑って囁いた。


「お帰りなさい。スターク」


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