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※スターク目線
※R-15表現あり




ただ、俺だけに
好きだと語ってほしかった


「…報告書です」
主君の部屋に赴き、束になったそれを渡す。
それを受け取り死神の主は笑った。

「ありがとう。スターク」
「……―――」

今日ここに出向いたのは、報告書を出す為じゃない。――報告書ぐらいなら誰か外の十刃に押し付けて出してしまうのが自身のやり方だ。
それをわざわざこうして自らで出しにきたのには、当然理由が存在した。

…質問を、したかったのだ。
目前で妖しくも優しく、恐ろしくも艶やかに笑う、男。藍染惣右介サマに。

報告書を渡したタイミングで、自然に聞き出そうと、何度も頭で繰り返した言葉。
足りない頭で拙い文を並べ、なるべく烏滸がましくならないように、そう、悪魔でも自然に、それについて質疑しようと胸に誓っていた。
だが、いざそのタイミングになってしまうと頭が真っ白になり、好機を失ってしまう。唇を噛みしめ、高鳴る心音を押さえ付けるだけで精一杯だった。

「どうかしたかい?」
何かに気付いた主君が、矢庭問いを投げてくる。
ああ。聞かないと。
なんのためにここにきたんだ。
今しかない、聞け。聞け――!!

拳を握り、口唇を開く。が。
声が声にならない。喉がヒリヒリする。
考えてきた言葉など忘れてしまい、躊躇しながら、混乱した頭で咄嗟に文を組み立て、声を振り絞った。

「…藍染、サマは……………」

肝心な所が言葉に成らない。
ああもう、泣きそうだ。
肩を震わせれば、突如席を立った主君が、微笑みを浮かべ此方に歩み寄る。

「落ち着いて、言って御覧。私がなんだい?」
震える肩を抱き、ひっそりと、囁く様に藍染サマは言った。
肩に触れる手が暖かい。
それを心身から感じとりながら、一度落ち着こうと深呼吸をする。
再び唇を開く頃には、心は随分安定していた。

「藍染サマ、は…」

声の震えはどうにもならない。
目を瞑り、振り絞った声は
広い部屋に反響した。

「――市丸さんと、付き合ってるんですか?」


ああ、言ってしまった。
謎の虚脱感に肩がすくむ。
主君の顔を、見据えれない。

――嘘だといってほしかったのだ。
だって、俺は、藍染サマが


「……―――そうだよ」


好きだから。


「っ……」

「一体何処でそんな噂が広がるんだか。怖いものだ」

余りに淡々と返された、残酷な肯定文。
その後の藍染サマの言葉など、耳に入る筈がなかった。
嘘だと断言して欲しかった。
虚偽だと笑って欲しかった。
貴い願いは打ち砕かれ、噛み締めた唇から血が滲む。

いやだ、しんじたくない。しんじれない。
だけど事実は、事実でしかない。

「君の秘密主義を信頼して話すけどね、恋人として一通りのこともした。…キスもセックスもね」
此方の気持ちを知ってか知らずか、藍染サマは残酷な言葉を浴びせ続けた。
それはどんな罵倒よりも深く、胸の内を抉っていく。
いつか心臓が口から飛び出そうだった。
目眩がする。
どろりとした赤い感情が滾った。
胸を染める嫉妬が、憎悪が、悲しみが。
なぜ俺じゃないのか。
なぜ市丸さんなのか。
市丸さんが憎い。
憎い憎い憎い。――と。
金城り声を上げている。

「スターク?」

「…なんで………」

頭の中はぐちゃぐちゃで
無意識の内に、心の声さえ口にしていた。

「なんで、市丸さんなんですか?」

ああ、もう。とまれない。



「俺じゃ駄目なんですか…?」



…市丸さんが、ただ、憎い。
という、醜い心が渦巻いていた。
でもそれ以上に、俺は。
この人に愛されるPrimeraに成りたかった。

「俺は、藍染サマのこと……!」

「スターク」

暫し呆然としていた主君が、不意に喉を鳴らし、くつくつと笑った。
張り付けた微笑みで抱きよせられる。
たったそれだけで、世界が暗転する程の目まぐるしい幸福を覚えた。

「…そうだねぇ」

耳にかかる吐息がくすぐったい。
心臓が壊れそうなほど高鳴っていた。
もしかしたら、という思いは拭えない。
抱き寄せられたまま硬直していれば、優しい藍染サマからの、酷い言葉が、囁かれる。


「セフレぐらいになら、してあげてもいいよ」

――打ち落とされた小鳥。
その時の心情を現すなら、それがぴったりだった。
気付いた時には抱き寄せられたまま衣服をまさぐられ、指先が帯を解いている。
いやだといってこの手を拒絶するのは簡単な事なのに、それが酷く難しいことに感じた。
否、事実俺にはそれが酷く困難なことだったのだ。
愛しい人の手を振り払える程、俺は出来た破面じゃない。
乱された衣服から愛撫される感触を確かめながら、涙を滲ませる。

この人は俺がどんなに愛しても、愛してなどくれないだろう。
だからこそ俺は、無条件に愛されるあの人が、憎いのだ。

遠くなる意識。霞む視界。
その中で、腰を振る息遣いだけが明確に聞こえた。
洟か唾液か、汗か涙かよく分からない液を滴らせながら、一時の快楽に溺れ声を上げる。
自身が傷付くだけとわかっていても、愛のない行為だと知っていても、それを拒絶する事は不可能だった。


意味のない性交が終われば、何事も無かったように衣服を戻され、最後にたった一度だけ、触れるだけのキスをされる。
「なかなか良かったよ、スターク」
狼狽する間もなくはじまり、そして終わった行為。
落涙しながら駆け足に部屋を立ち去った。


自身が傷付くだけだと分かっていた
分かっていても
あの手を振り払えなかった俺は
どうすれば良かったのだろうか

どうすれば俺はあの人に愛されたのだろう


泣き叫んでも、どうにもならないけれど
叫喚せずにはいられなかった
そうでなければ
壊れてしまいそうだった



×××


「酷い人やなぁ」

Primeraの立ち去った主君の部屋。
臼笑みを浮かべながら席に座り直した主君に、絡み付く様に男は言った。

「ギン」

「スターク君、藍染サマの事好きなんやろ?あんなやり方じゃあ泣かれても仕方あらへんわ」

背後から顔を覗かせた男を招き寄せ、主君は言葉を笑い飛ばす。

「君以外は要らないのだから、仕方ない」

「……ホンマ、酷い人やわぁ」

嗤うふたりの口唇が重なり、縺れた感情が男を地面に押し倒した。











確定的バッドエンド
(足掻いたところでENDはひとつ)










友達にあげた奴です。


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あきゅろす。
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