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※空座町決戦後設定。京楽とスタークが同居してます
※スターク目線





神を信じないあの人が
神を崇拝する行事を挙げてくることが
なんだかとても可笑しくて
思わず唇が綻んだ、あの夏夜。

あの人は面白い余興が大好きだから、
何も知らない俺達破面に、読み聞かせるように教えてくれた。

七夕、というのは
短冊を掲げて願いを謡うという、俗世の星行事らしい。

耳元で愛を語るように教えてくれたあの人。
微笑むあの人に同じ様に微笑んだ自分。


――悪い夢はそこで醒めるのだ。



「…スターク?」

拓いた視界に、不安気に心(ウラ)寂しい顔をする男の表情が見えた。
どうやら夢を見ていたらしい。
瞬きを繰り返せば、生暖かい感触が頬を滑る。
それが涙だと理解するのに多大な時間が掛かった。

(…そうだ、俺は)

あの日。俺を含める複数の破面が、死神と対峙し、争った。
俺は隊長格二人と仮面の軍勢二人を倒したが、後に再び現れたひとりの男に倒され、地上に落下し気絶したのだ。

…あの人は、堕ちる俺を見向きもしなかったな。なんて。あの時は呑気にそう思っていた。
俺はこのまま死ぬのだろうと思っていたけれど、次に起きた時には、争った死神に抱かれていて。
今俺がこうして八番隊隊舎で暮らしているのは、目前の男の情けが訳だった。

「……大丈夫かい?」
うなされていたよと、付け足した男は暖かい体温で俺に触れ、息を吐く間もなく、抱き寄せる。

「………平気だ」

そうだ、俺は平気だ。
自分に言い聞かせ、その胸に顔を埋めた。


戦いの後
目が醒めた時には全てが後の祭で
俺は嘘か本トかわからない戦いの終幕を
この男から聞かされた、それだけだ

ただ
あの人は俺を、
俺達十刃を捨てたのだと
理解するのに時間は掛からなかった

真実は残酷だった

色々な事を教えてくれた
眠れぬ夜には抱きしめてくれた
愛してると、謡ってくれた時もあった
あの言葉は、温もりは、笑顔は
全て偽りだったのだと

それを知ってしまった時
冷静で居られる程
俺は出来た破面じゃなかった


叫んだ
喚いた
泣き散らした
そして、自虐した

それを止める片割れも死んで
俺にはもう何もないのだと
弥が上でも気付かされて
ただ泣くしかなかった俺を
救ってくれたのが、今此処にいるこの男だ

突発的な発作を繰り返せば赤子をあやすように抱きしめてくれ、眠れなければ傍らで話を聞かせてくれた。
俺が平常心に戻れたのは、この死神が居たからだ。
今も、うなされている俺を心配して起こしてくれたのだろう。
抱きしめてくれたのは、俺が震えていたことを知っていたからかもしれない。
…これ以上甘える訳にはいかないとわかっていても、俺はその温もりに甘えた。

「…きょう、らく」
「……うん」
「………」
黙り込む俺を抱擁する腕は酷く暖かい。
心地よさに陶酔し、悪夢を忘れかけた時。微かに障子を開けた京楽が、月を見上げて微笑んだ。

「ほら、今日は星が綺麗だよ」

見て御覧。と。催促され腫れた瞼を釣り上げる。
あ。と、思った時には
心肝はフラッシュバックをはじめ、京楽は語りだしていた。

「今日は七夕だねぇ」

――ああ、だからあんな夢を見たのか。

ぐらりと揺れる。
吐き気を覚える。


―スターク
―愛してるよ
―此方においで
―きみがいてよかった

き み が い て よ か っ た



再び呼び起こされた悪夢に、今度は噎せ上がった物を嘔吐していた。
異変に気付いた男が、慌てて背中を摩り、譫言にごめんねと繰り返す。

何故。どうしてあんたが謝るんだ。
悪いのは偽りを見せた藍染サマなのに。
…その藍染サマをまだ信じてる俺なのに。


「…あ、い…ぜ……さま……」

思い出す度に苦しくなるのは
思い出す記憶が、余りに幸せだからだ

それが偽りだったと、何故今更信じれるだろう。いや、信じれない。
泣き喚き、折々嘔吐する俺を、抱きしめる京楽の手が、震えてる。


謝らなければ、と。わかっているけれど
零れるのは涙だけだった




――短冊に願いを書くとね、願いが叶うんだ

―本トかよ

――試してみればいい

―…ん。じゃあ、

――…

―…藍染サマと、ずっと一緒に居れますように

――…当たり前だ。願うまでもないよ


――愛してる。スターク
――キミが居て、本当によかった



不意に過ぎった記憶は、
桃源郷のふたりだった



忘却の星
(神様、お願い。あの頃に戻して)











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あきゅろす。
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