※バトンでやった奴
※藍←スタ←ノイ
※ノイトラ目線
迂闊だったと思う。
どうやらその"言葉"は禁句だったらしく、顔を歪めた目前の男は、痙攣する眉間を引き攣らせ無理に笑った。
苦笑を浮かべ、揺れる瞳には、薄ら涙が浮かんでいる。
わかってる。
と。呟いた男は、そうして遂に頬に雫を滴らせた。
決壊したダムの様に、後から後からとめどなく溢れる涙。
悪い事をしてしまったかもしれない。
わんわんと声を上げて泣き出したスタークを、呆然と見つめながら思った。
――所詮藍染はお前の事、便利な道具としか思ってねえよ。
何かの弾みに、自然と口が動いていた。
多分、藍染の話をしていた時だ。惚気る男に苛立ち、つい滑ってしまったのだ。
その言葉にスタークは静止し、傷付いた笑みを浮かべた。
それがほんの一時前のことだ。
「わかってる。…どうせ藍染サマは、俺の事なんて愛してくれない」
落涙に目を腫れ上がらせ、嗚咽を吐きながら、それでも歪に笑うプリメーラの酷く儚い吐露。
「…だけど。それでも俺はあの人が好きなんだ……」
呟く男の、見てる此方が胸を痛めるような笑みに、無意識に指先が男の背中を抱きしめていた。
腕の中に男を押し込み、震える身体をきつく抱擁する。
「……ノイ、トラ…」
「………」
悪かった。
なんて、謝る気はない。
だけど泣かせてしまった事は確かなのだ。
せめて贖罪しようと、滾る心をかなぐり捨て、抱きしめた身体を宥める様に撫でる。癖の有る黒髪を指で絡めるように愛撫すれば、ぽつりとスタークが何かを呟いた。
ありがとう。と笑ったのか。
藍染サマ。と泣いたのか。
俯く表情は読み取れない。
(そんなに辛いなら、止めてしまえばいいのに)
髪を梳きながら、不意に思った一思い。
あんな奴を愛する事が間違っているのだ。
止めてしまえばいい。
そんなに辛いなら。
分かりきっているのなら。
藍染なんて、拒絶すればいい、
そうだ。第一あいつが悪いんだ。
こいつがこんなに思ってるのに。
微塵もそれを労らない。
あの糞野郎が悪いのだ。
抱きしめる力が強くなる。
支離滅裂に思いを馳せながら、そうして最後に思った。
悪いのはあいつ。
スタークを泣かせたのは藍染だ。
だから俺は悪くねぇ。
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