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これは白昼夢かと、男は一度小首を傾げ、ぼんやりと自身の行動を思い返した。
回想の中には確かに目覚めた記憶がある。
じゃあこれは現実か。
だとすれば、とんだ現実だ。
溜息を吐いた男は、目前で背筋を伸ばす青年に苦笑した。

「そりゃあ、キミの事は嫌いじゃないよ」
優秀。とは言い難いが、男が此方に忠誠を誓い忠実に動いているのは確かな事実だ。
とりわけ好きと言うわけでは無いが、嫌いという訳でもない。便利な舎弟。
それが月島秀九郎の抱く獅子河原萌笑への印象だった。
だから本日も、その概念に基づき男は青年に命を与えた。
月島が口唇を滑らせた数秒後。
押忍!と叫ぶ獅子河原が次いで大口を開く。

「好きです!月島さん!!」

その第ニ声が、この場に妙な空気を落とした。
堪え難い沈黙に溜息を吐いた男は、ゆらりと目線を青年から逸らす。
何処から"好き"なんて言葉が出て来るんだろうか。なんて呑気な事を考えて居る内に、半歩飛び出した青年が腕首を掴み、その手を引っ張った。
バランスを崩し前のめりになった月島の口唇に宛がわれた、口唇。
たった一瞬触れ合っただけなのに、やけに長い時間に感じた。
口唇が離れたと同時に体制を立て直し、男は自らの唇に指で触れる。


「…獅子河原クン?」

追いつかない思考で、男はとりあえず強引に口唇を重ねた青年を呼んでみた。
そこで飛び出したのが謝罪だったなら、まだ正常な思考に戻れたかもしれない。
だが青年が前のめりに叫喚したのは謝罪でも言い訳でもなく、過度感情だった。

「俺、本気っスから!」
踵を返し走り去る獅子河原を追う気力など、月島には存在しない。
男が部屋から立ち去った後。出来事に追いつかない、というより処理しない思考で、月島は何度も自らの口唇を指の腹でなぞった。


Risky Game!!
(唇より鼻が当たったんだが……)









俺得でごめんなさい

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あきゅろす。
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