好きになったのが君だった(首無)






「首無の不思議を探り隊。」



…隊?

唯の奇怪な発言は日常茶飯だが、こうも唐突だとさすがのボクでも少し混乱する。



「…何だって?」

「だから、首無の不思議を探り隊。」

「…隊長は誰?」

「私。」



唯との出会いは数ヶ月前。

風で飛ばされてしまったマフラーを追いかけていくと一人の少女の足元に落ちた。それが唯だった。


まあ、要するに首が無いのを見られて妖怪だとバレてしまったわけで。しかし驚かれるどころか興味を持たれ、こうして時々会ったりするような仲になったのだ。




今日は夕暮れ時に、屋敷から少し遠い小さな公園で待ち合わせた。



「私あなたの事あまり知らない。」



ボクはブランコの柱に寄り掛かりながら、ゆらゆらとブランコに揺られる唯をちらりと横目で見る。



彼女は人間だ。
でもボクは着実に彼女を好きになりつつある。いや、既に好きになっているかもしれない。

ボクは妖怪だ。
明らかに人間とは違う世界に生きる、違う存在。唯はボクなんかと一緒にいて良いのだろうか。



そんな思いからあまり自分の事は話していない。話したくない、と言うのもある。

話すと唯と自分は違うんだと言う事を改めて痛感してしまうから。



「もう出会って大分経つのに知らない事が多すぎるわ。」

「聞かれないから言わないだけだよ。」

「聞けば教えてくれるの?」

「さあ、どうかな」

「意地悪。」

「ボクは意地悪だよ。妖怪だからね。」



そう言うとフンと拗ねたように鼻を鳴らして、緩く揺らしていたブランコに勢いをつける。



「そんなに勢いつけたら落ちるよ。」

「落ーちなーいよー」

「落ちても拾ってあげないよ。」

「意地悪ー」

「妖怪だからね。」



ブランコはなかなかの高さ。速さも結構なものだ。

落ちても拾ってあげないと言いつつ心の中では少し心配してたりして。
そんなこと言ってあげないけれど。



「あのさ、」

「なーにー」

「怖くないの?」

「なにがー」

「ボクは妖怪だよ。」

「知ってるよー」



止まる気配のないブランコの上からの間延びした返事。
速くて唯の顔が良く見えない。



「唯」

「んーなにー」

「唯 止まって」

「えー?」

「唯」

「ごめ、風で良く聞こえな、」

ガシャン



揺れるブランコの鎖を掴んだ。

結構な速さだったものを無理矢理止めたので、唯がブランコから投げ出されそうになったが、なんとか踏み止まったようだ。



「…あっぶな…」

「…」

「び、びっくりした…いきなり止めないでよ!」



キッとこちらを睨んだが、じっと見詰め返すと目を逸らされた。



「目、見て。見たい。」

「…見ない…」

「だめ。」

「…見せない…」

「だーめ。」



唯の前にしゃがんで見上げる。
すると顔を手で覆って、目だけじゃなく顔まで見えなくなってしまった。



「唯、ボクは妖怪なんだよ。」

「…知ってる」

「怖いでしょ。」

「…」

「それでもボクの事を知りたいの?」



そう問うと、しばらくしてバッと顔をあげた。



「知りたい」




「…妖怪なんだよ?ボク」

「さっきから妖怪とか何とか、やたら言ってくるね。どうして?」

「だって、君とボクは違うから。」

「違うといけないの?」

「…え…」

「妖怪とか人間とか、別にどうでも良いじゃん。」



すると唯は手を伸ばし、するりとボクの首に巻いたマフラーを取った。

無い首を隠すものがなくなった。



「好きになったのが妖怪だった。それで良いじゃん。」



目を見開くボクと反対に、唯はニコッと笑った。


何だ、そうか、そんな簡単な答えで良かったのか。ボクは唯との関係を難しく考えすぎていたのかもしれない。


好きになったのが人間だった。
これで良いんだな。



「…ははっ」

「え、何?私何かおかしなこと言った?」

「いや、違うんだ。あれこれ考えていた自分が馬鹿らしく思えてね。」



立ち上がって前髪越しに額に口付ける。
本当は抱き締めたかったのだけれど、ブランコの鎖が邪魔しそうだったからやめた。



「唯、ありがとう」

「私何もしてないよ?」

「うん、でも、ありがとう」

「変なの」



見上げてくる唯の頬を両側から包む。少し赤い。



「ボクも君の事をもっと知りたいよ。」

「ん。いくらでも教えてあげる。」



ちゅ、と今度は唇に軽く口付ける。

人間はどこも柔らかいんだな、なんて思いながら再度唇を重ねる。初めて触れる唯の唇は心地よくて、何度も何度も、柄にもなく夢中になって口付けた。




唯とボクは違う。
違うから知らない事がたくさんある。
でも…


その分これから知る事もたくさんあるってこと、だよね。






好きになったのが君だった
なんてことない、ただそれだけのこと







「…」

「どうしたの?」

「場所を、変えようか。」

「え、なんで」

「手っ取り早く君の事を知りたくなった」

「…?」

「…野外は、嫌でしょ。」

「…!?」










***

紫苑ちゃんより“普通の人間の女の子と首無の話”とのリクエストでした!

ど、どうですかね…?
い、一応甘めなものを目指したつもりですが…あ、甘くないかな…!
普段はあまり人間とか妖怪とか気にしないで書いていたので、なんだか新鮮で楽しかったです^^

相互ありがとうございますー!
これからも当サイトと管理人をどうぞよろしくお願い致します(照)


 


あきゅろす。
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