エアポッキーゲーム(首無)






好きな人が隣にいて、取り留めのない話をして、くだらないことで笑い合う。なんて素晴らしいことだろう。



「唯」



名前を呼ばれて首無の方に目を向けると、いつの間に間合いを詰めたのか首無がすぐ横にぴったりと座っていた。


首無の顔が、

顔が、

だんだんと近付いて、

近付いて、

近付いて………?



「ちょっと待ったーーー!」



首無の肩をどんと突き放して距離をとる。首無は少し驚いた顔をしたがすぐ呆れ顔になって小さく溜息をついた。



「…いい加減に慣れてくれないかなぁ、唯。」

「だ、だって…恥ずかしいし…」

「毎度毎度恋人にキスを拒まれるボクの気持ち分かる?結構傷付くんだけど。」

「…ごめん…」



悪いことをしてるって分かってはいるけど恥ずかしいものは恥ずかしいのだから仕方ない。

恋人という関係になってもう大分経つが、キスなんて数える程しかしていない。その先なんてもっての外。健全すぎるお付き合いである。



「何でそんなに嫌がるの?キス嫌い?」

「…そんなことは…ないけど…」

「じゃあどうして?」

「か、顔近付けてくるから…」

「近付けなきゃキス出来ないよ。」

「ごもっともです…」



でもまだ首無のアップには慣れないんだ。

そう言うと



「よし、じゃあ練習しようか。」



スッと首無が懐からなにやら長方形の箱を取り出した。それはまさしく…



「ゲームをしよう」



細い棒状のビスケットにチョコレートをコーティングしたお菓子、通称ポッキーであった。

これを使うゲームなんて思い付くのはひとつしかない。



「…ゲーム、と言いますと?」

「決まってるじゃないか。勿論あの有名なポッキーゲーム、だよ。」



ポッキーゲーム。
それは二人で一本のポッキーを両端から食べ進めていくと言う、ちょっぴり恥ずかしいドキドキなゲームである。いや、ちょっぴりなんてもんじゃない。私にとってはとてつもなく恥ずかしいゲーム。



「はい くわえて」



まだやるなんて言ってないのに、首無はそんなのお構い無し。

有無を言わさずポッキーのチョコが付いている方を口に突っ込まれた。だが私は驚きのあまり、首無が一口食べ進めたところですぐさま折ってしまった。



「…まだチョコの部分まで到達してないんだけど…」

「い、いきなりすぎだよ!もうちょっとワンクッション置いて!」

「仕方ないなぁ。じゃ、次。」



二本目のポッキーを取り出し、また口に突っ込まれた。今度は突然でなく「食べるよー」と私の言った通りワンクッション。




サクサクと食べ進め、順調に短くなっていくポッキーと徐々に近付いてくる首無の顔。

やはり近距離に慣れない私はまた途中で折ろうとした。が、いつの間にか首無の手が私の頬を固定していて顔が逸らせない。




そしてついにポッキーの長さは0pとなった。



「ご馳走様でした。」



ニコリと微笑む満足そうな顔に、ああ今ちゅーしたんだ、と自覚。口の中にチョコレートが残っていて甘い。



「さあ、まだまだ練習するよ。」

「こ…これが練習…?」

「練習練習。近距離の練習。」

「私にとっては羞恥以外の何物でもないんですが…」



ウキウキとまたポッキーを取り出しては私の口に突っ込み、何度も何度もポッキーゲームを行った。

と言っても食べるのは首無ばかりで私は固まったままだ。顔を逸らしてポッキーを折るくらいしか出来ない。












「あれ、なくなっちゃった。」



そうこうしてるうちにポッキーを全て食べ終えたようだ。

首無はもっとゲームをしたいようだが、私はやっとゲームを終えられると思い安堵した。



「唯唯、もう一回。」

「え…だってもうポッキーないじゃない…?」

「ポッキーがあると仮定してやるんだよ。」



そう言うと丁度お互いがポッキーをくわえた状態の距離まで顔を近付ける。


そのまま近付いて、

近付いて、

ポッキーの長さで表すと、0pとなった。



「…今の普通のキスじゃん…」

「あ、バレた?」

「だ…騙された…!」

「あはは」

「あははじゃない!」



ポッキーがあると仮定してのポッキーゲームだと言うからどんなものかと思えば。恥ずかしい。ああ恥ずかしい。



それに、いくら練習したって相手が首無じゃあ慣れるわけないじゃないか。恥ずかしい。ああ恥ずかしい。






エアポッキーゲーム
恥ずかしい、ああ恥ずかしい







「若ポッキー持ってたりしないかなぁ。」

「そんな都合よく持ってないでしょ…」

「ポッキーじゃなくても良いんだけどな。なんかこう、棒状のもの。トッポとか。」

「そんなにポッキーゲームがしたいの?」

「ポッキーゲームって言うか唯とキスがしたい。」

「…」










***


雨宮さくら様より“紳士なのに変態な首無”とのリクエストでした!

あれ…紳士要素どこだ…?
誰お前。首無?首無なの?
てかヒロインが恥ずかしがり屋すぎてイラッときますね、わかります。私も自分で書いといてイラッときました。

さくら様からは随分前に頂いていたのに、私の方は大変お待たせしてしまって申し訳ありませんでした…!こ、こんなんで良かったら貰ってやって下さい!!><


 


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!