大人のキスして(鴆)






今日は総会の日。
久々の出席だ。

いつも総会の日に限って体調が優れなく、幹部のくせになかなか顔を出せないでいる自分が情けない。

そんな日は唯が総会の内容や連絡事項を伝えに来てくれる。
会いに来てくれるのは嬉しいが、会いに行ってやれない自分がまた情けない。


まあ今日は体調も良かったのでこうして本家へ来ることが出来たわけだが。
総会も終わったし時間もあるので唯に会おうと部屋を出た。



「…どこだ?」



先程から唯を探し歩いているのだが全く見つからない。
広すぎんだよこの屋敷…



「部屋にもいねえ台所にもいねえ宴会場にもいねえ、一体どこ行ったんだ唯のやつ。」



風呂か?
いや、この時間は誰も入らないはずだ。

買い出しか?
いや、こんな真夜中にあの方向音痴な唯を行かせないだろう。



「参ったな、患者が来るからもう少ししたら帰らねぇとなんだが…」



次いつ本家に来れるか分からないが、見つからないのなら仕方ない。



「…会いてーな…」



そうぽつりと呟いてみる。
すると、





「鴆くん見っけーーー!」

「ぐふっ!?」



ドーンと背後から飛び付かれて、否、タックルされてオレは廊下に倒れる。



「唯!?」

「もー探したんだから!お屋敷広いんだからあんまりウロウロしないでよね。」

「それはこっちの台詞だ!お前こそフラフラしてんな!」

「ただフラフラしてた訳じゃないもん!鴆くん探してたんだもん!」

「オレだってウロウロなんかしてねぇよ!ずっと探してたんだよお前をよ!」



会って早々の言い争い。
なのに会えた嬉しさで自然と顔が綻んでしまう。そんなオレを見て唯は、にへら、と頬を緩ませた。

ぎゅっと軽く抱き締めてやる。



「会いたかったぜ 唯。」

「うん。私もだよ。」



頭を撫でてやると猫みてぇに擦り寄ってくる。

いつも思うが、こいつは本当に小さくて細くて、折れちまいそうだ。
前にそれを言ったら「鴆くんの方が細くて折れそうだよ」なんて言いやがったが…そんな筈はない。



「本家で鴆くんに会うなんて久々。なんか変な感じ。」

「変?何でだよ。」

「いつも私が会いに行ってるからさ、違和感っていうかさ。」

「…そう、だな」



どれだけ会いに行ってやれてないんだ、オレは。
やっぱ情けねー…

ひとり自己嫌悪に陥るが、着物の袖を引っ張られて我に返る。


「鴆くん鴆くん」

「なんだ?」

「ちゅーしよう」

「…お前…ここどこだと思ってんだ、廊下だぞ?廊下のど真ん中だぞ?」

「何よう、いつもの事じゃん。」

「ここはオレんちじゃねぇ。誰に見られるか分からないんだぜ。」

「いいじゃん別に!」

「オレは良くないんだ」



やだやだと暴れる唯。
無茶なお願いに困る反面、嬉しいと感じる自分もいたりして。



「…仕方ねーな、」



まわりに人がいないか確認してから、ちゅっと軽く触れるだけ。



「これで我慢しとけ。」

「そんな子供みたいなのじゃ嫌だー」

「ここではこれが限界…「おうおう、相変わらず熱いねぇ」



突然聞こえた声にビクッと振り向く。
するといつの間にかリクオ、しかも夜の方のリクオが立っていた。



「あ、若様こんばんは!」

「よう唯。今日も元気そうだな。」

「リ…リクオ…」

「よう鴆。今日は元気そうだな。」

「…一体いつからそこに…」

「オレはぬらりひょんだからな。」

「答えになってねぇよ!」



迂闊だった。いくら軽いものとは言えリクオに目撃されてしまった。…柄じゃねぇが、オレだって照れるもんは照れる。



「ちょっと聞いてよ若様!鴆くんったら子供扱いするの!」

「ちょっ、おい唯っ…」

「そらぁ酷いな。鴆はケチだな。」

「ね!ケチだよね!」

「お前ら…」



リクオはクスクス笑いながら唯の頭を撫でる。畜生その手を退けろ。



「だがな唯、鴆は身体が弱いんだ。」

「?知ってるよ。」

「だから大人のキスは疲れちまうんだよ。」

「そうなの?」

「ああ。吐血するかもしれないからあまり無理させちゃいけねえ。」

「そうなのかぁ…」



おい、おいちょっと待てリクオ。
オレはそこまで病弱じゃねえ。唯も関心すんな。

今すぐ二人を引き剥がしたい所だが、相手は若頭。我慢、我慢だオレ。


「けどな、」


唯の頭の上にあったリクオの手が、今度はくいと唯の顎を持ち上げる。



「オレだったら大人のキスだってなんだって、いつでも歓迎だぜ?」

「はあ…」

「鴆で欲求不満になったらオレんとこ来な。心も身体もオレが満足させてや、」

「あ゛ーっ、もう我慢ならねえ!」



無理矢理リクオと唯を引き剥がす。

チッと小さく舌打ちが聞こえたが今はそれどころじゃない。



「調子に乗りすぎだリクオ!」

「調子?何のことやら。」

「…っ!お前じゃなかったら二、三発は殴ってたぞ!

いいか!?

こいつはな…唯はな…」



ぽかんとしている唯の腕を引き、頭を胸に押し付けるようにガバッと抱き寄せる。



「オレの、だ!」



そう言い放つと同時に、強引に唯と唇を重ねる。



「え、鴆く、」
「黙ってろ」



照れとか恥とか全部忘れて、リクオ見せつけてやるように、所謂大人のキスってやつを。

リクオは少し驚いたように目を瞬かせた。



「…いくらお前でもこいつは譲らん。」

「…そうかい。ま、仲良くやんな。そろそろ邪魔者は消えてやるよ。」



そう言ってリクオは小さく笑うとオレたちに背を向けて去っていった。



「ったくマセガキが…油断も隙もない。」

「鴆くん鴆くん」

「あんだよ」

「なかなか良い台詞だったよ。私ドキッとしちゃった。」

「あ?…あ、ああ…まあ、な…」



自分が言ったこと思い出して今更恥ずかしくなってきた。そんなオレに反して唯はニコニコと嬉しそうだ。



「鴆くん鴆くん」

「んだよ…」

「さっきの、もう一回。」

「…だめだ」

「えー…やっぱ若様の言う通り疲れちゃうんだ?吐血しちゃうんだ?」

「違っ、そう言うことじゃなくてな、」

「言われてみればあんまりしてくれないよね。そんな理由だったなんて!」

「だから違、」

「それくらいで吐血だなんて情けないね鴆くん!弱いね鴆くん!」

「………すれば良いんだろ」

「そう来なくっちゃ!」



誰が通るか分からない場所ではあるが、仕方ねえ。好きなやつにここまで言われて黙ってられるかっての。

覚悟しろよ、唯。






大人のキスして
吐血するほど弱くねえよ











***


ハッピーバースデー鴆くん!

ということで、全く誕生日関係ない話になりましたが、一応鴆くんの誕生日祝いとして書き始めたものです。鴆くん初めてです誰これ。

なんかもう思い浮かぶままに書いたので良く分からない上に纏まりのない(^-^)ガッデム

照れ屋な鴆は…アリですか…


 


あきゅろす。
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