「エースのばか!!」
「……やってられるか!!」
ばたん。
はあ。
思わず溜息が洩れた。
最後の晩餐
完全に私のやつあたりだ。
喧嘩するにはくだらない小さなこと。
でも、最近すれ違いが多くて、お互いが何を考えているのか分からなくなってた。…少なくとも私はエースが最近どんなことを思っているのか分からなかった。その不安の隙間を焦って埋めようとした結果が、これだ。
「ほんとはこんなことがしたいんじゃないのにな」
ぽつりと呟く言葉は、窓の外から透きとおる青空に消えていった。朝起きた時には輝いて見えていた青空が、今の私には眩しすぎて痛い。
とぼとぼと朝食の残りを片付ける。
「…エースのばか」
こんな時でもエースは決して出された食事を残さない。
今日はスクランブルエッグにトーストと牛乳だった。
エースが朝出て行ってから2日が経った。
まあ、任務というか仕事で2,3日帰ってこないのはよくあることだ。気にしてはいけない。…気にしては
「…気になる」
咄嗟に受話器をとる。電伝虫が困った顔をしていた。
「わかったから、そんな顔で見ないでちょうだい」
もうそらでなぞらえる番号を押す。トゥルルル、トゥルルル、コール音が無情にも部屋に鳴り響く。
「…はい、こちら、」
「エース!?」
「…エースなら出張でこの2日間帰ってきてないよい」
「…なんだ、マルコか」
「…喧嘩かい?もうすぐ結婚式なのによい」
…そうだ、私たちはもうすぐ結婚する。
ちょうど二人が出会った記念日に。
「ぐすっ…マルコ…」
「ああ、電話越しに泣くんじゃねえよい、背中を擦ってやることもできねえんだから」
「マルコ…ぐすっ…エースから連絡ないの…」
「…ああ」
「なにかあったんじゃないかと思ったら、もういたたまれなくて…」
「…うん」
…どうしよう。あの喧嘩した朝食がエースととった最後の食事になってしまったら。
いやだ、そんなの、悲しすぎる。
「おい、大丈夫なのか」
電話越しに遠くから声が聞こえる。サッチだ。
「ああ、マリッジブルーだよい」
「どれ、俺に貸してみ?」
「おーい、大丈夫かァ」
サッチの暢気な声が聞こえる。いつもなら、その暢気さ加減に苛立つんだろうけど、こんな時は心に滲みるようにあったかい。
「エースが行った今度の島がよ、実は、」
「サッチ、それは言っちゃいけねえよい」
「え?」
その時だった。トゥルルルル、トゥルルル。横から着信が入ったのが分かる。電伝虫が混乱している。
「マルコ、ごめん。着信入った。また電話する」
「おう、いつでもかけてこいよい」
がちゃり。
一度マルコへの電話を切って、着信先に出る。
「もしもし?」
「…俺だけど」
「…エース」
「…悪かったな、連絡しねえで…急に傘下の奴らに呼ばれちまって…」
「いや、こちらこそ、…ごめん。…ねぇエース、何か食べたいものはない?」
「…手料理」
「え?」
「…お前の手料理がたべたい」
「…あ、当たり前じゃない、何の料理がいいか聞いてるの」
「…スクランブルエッグ」
「……え?」
「それと、サラダとトーストと、牛乳」
「…もっと豪華な料理くらい、」
「いや、これがいいんだ。それで、この前の朝食のやりなおしをしよう。…もう、喧嘩なんてしないから」
「………うん」
「ごめんね、エース。…ありがとう」
「へへっ、謝ってんのか、感謝してんのかどっちかはっきりしろ。……俺もごめんな」
もし、最後に食事をするなら、スクランブルエッグがいい。
今日みたいに心穏やかにエースと食べた記憶を残したいから。
白い皿に寄せた左手に、真っ赤に輝くルビーの指輪が光った。
Fin.
_________________________
素敵企画サイト『いただきます』様提出。
食事、特に朝食は毎日取るものだから、思い出も多くて、楽しく書けました。素敵な企画を立ち上げてくださった主催者様、読んでくれた方、ありがとうございました!!
(20100418)
[戻る]
無料HPエムペ!