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ざぶん。青白い水飛沫が甲板の柵を遥かに越えて、私の元まで届いてきた。隊長が海に…!滅多に起こらない緊急事態に一番隊を始め船員達全員が狼狽している。まずい。そう口に出すよりも身体が出る方が早かった。ざぶん。先程よりは小さな水飛沫がまたひとつ上がって、私はゆらゆらと揺れる海底の中を必死に目を凝らす。船の上から見える穏やかな海面とはまるで違う、薄暗く不気味な海底。今この瞬間も彼はぶくぶくと水泡を吐き出しながらこの海底に沈んでいくのだと思うと、心底寒気がした。
はやく、はやく見つけ出さなくては。
くるくると身体を回転させ目線を投げれば、…いた。目測距離、15m。今もどんどんと酸素を失いながら彼は沈んでいく。こんな事態なのに、キラキラと海面から射し込む光が照らすその姿が余りにも綺麗で神秘的で、私は一瞬だけ彼に見惚れる。でもそんな無意識に浮かんだ考えは次の瞬間にはぶんぶんと頭から消し去って、私は焦燥に駆られながら水を蹴る。早く彼の元に。そうやって必死に水を掻いているのに、ちっとも彼に近付けない。伸ばした手が、届かない。なぜ。どうして。いつも優しく私達を包み込んでくれる海がこの瞬間だけは憎い。やめて。彼を連れていかないで。
隊長
マルコたい
「…ちょう」
「もうお目覚めかい?」
はっと身体を起こすと右手にぎゅうっと暖かい温度。目線を上げれば、
「えっ!
あ…あ、わたし、」
「あァ、可愛いい事呟きながらうなされてたよい」
くつくつくつ、と笑うマルコさんはいつもより上機嫌に見える。その笑顔は、夢だと気づかせるには少々刺激が強すぎた。思わずつうっ、と一筋零れ落ちた水滴に、彼はびくり、とうろたえる。
「怖い夢だったのかい?」
「…ええ。それはものすごく」
例えば、俺が海に墜ちる夢とか?くすくすと彼は笑って落ちた一筋の涙の跡をゆっくりとなぞると、優しく私の髪を撫で続ける。
「な、なんでわかっ…?」
「ん?それは教えられねェなァ。俺だけに聴かせてくれた言葉だろい?」
「え?」
『わたしの隊長を、連れていかないで』
ほら、俺は此処にいるから。お前の傍を離れたりなんか、しないから。だから、ゆっくりおやすみ。優しく見つめるマルコさんの瞳に、安堵からくる穏やかさとは相容れない、早鐘のように鳴り響く左胸。安心感と脱力感とにきらきらひかるときめきとが混ざりあってだめだ、今夜はもう、眠れそうにない。
渚に落ちた夢のゆくえ
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▼2010629
thanx:bambino
甘くならなかった…!
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