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彩り鮮やかな花達の香りがつんと鼻につく。その強い自己主張が嫌いだ。いずれ終わる命だというのに、一体何をそんなに主張したいと云うのだろう?
気がつけば、花々が我先に咲き誇る花園の中にいた。きらびやかな極彩色が目に痛い。真ん中には白い大理石で形作られた噴水。噴水の頂点には御約束通り、天使のオブジェがひとつ、ぽつんと佇んでいる。
中庭になっているのだろう。高く白い巨大な建物に四方を取り囲まれている。頭上を見上げると、一面に色素の薄い青空が広がっていた。
「…此処にいたのか」
「ふふふ、君から来てくれるなんてね」
俺が声を掛けた先には、真っ白のシャツを着た幼い少年がいる。俺は確かにこの少年を知っているのだが、俺との繋がりも、その少年が何者であるのかも、例えばその名前すら、思い出す事が出来ない。
「ありがとう。薔薇の香りは好きなんだ」
この少年について何一つ知らないのにも関わらず、俺には分かっている事がひとつだけあった。俺は手に持っていた真紅の薔薇の花束を少年に手渡す。
「この強く鼻につく匂いが好きなんだ。いずれ枯れる運命なのにね」
「……」
俺は掛けるべき言葉が見つからない。いや、そんなものは最初から無いのかもしれない。心にも無いことを口にするより、沈黙を守る方が余程誠実である気がした。
「君は全て解っているんだろう?」
俺は黙って頷く。少年は満足気に笑って、手元の花束を虚空に、高く高く放り投げた。蔕から離れた花弁達がひらひらとあたり一面を紅く染めながら空を舞う。
「君は君の想うままに生きればいいよ。それが一番'正しい'事さ」
最後の一枚が地に墜ちて、少年は消えた。周りに確かにあった筈の噴水も、巨塔も、花園も、全てが跡形もなく消えていた。
そこで、目が醒めた。この夢を見るのは、何年振りだろうか。前に見たのは、…俺が初めて'任務'を完遂した日、だったように思う。
ふと、部屋に申し訳程度に付いている小さな窓枠に何かいるのが見えて、近付いてみる。小さな揚羽蝶が死んでいた。その横には、赤い薔薇の花弁が一枚寄り添うように添えられている。
ひとつだけ解っている事がある。あの少年は俺自身であるという事だ。ただあれが、俺が少年になって見た夢なのか、それとも、少年が俺になって見た夢なのかは、未だに分からない。
美しすぎると
幸せには
なれないらしい
thanx:棘
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▼20100605
0602
Rob Lucci
Happy Birthday
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