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電話越しのラブソング

俺としたことが。














ぱちりと目が覚めて、慌てて時計を見ると既に待ち合わせた時間から1時間以上経過していた。いつもなら目覚ましが鳴る5分前には目が醒めるのによい。


…はあ。


近頃はいろいろと此方から向かわねばならないことが重なったから。仕事が続いて疲れてたから。…色々と自分を正当化する言葉は出てくるが、結局言い訳しても何にも変わらないことは明白だった。


…シュークリームでも買っていくかなァ。


あいつが好きなシュークリームでせめてもの罪滅ぼしをすることに決めた。








宿から待ち合わせ場所まで行く途中で、ぽつりと天から落ちてきた雫。何処までも抜けていくような透きとおった青空が、掌を返したように灰色の雲に覆われ、とうとう堰を切ったように雨が降りだした。


「まったく、俺は日頃の行いは善い方だと思っていたんだがねェ…」


ばしゃばしゃと水溜まりを跳ねて、待ち合わせ場所に急ぐ。来る途中で買ったシュークリームはもうボロボロだ。あいつは待っていてくれるだろうか。…まさか、きっと怒って帰っているに違えねェ。








雨を避けて俯いていた顔を上げてみると、遠方に小さい人影が見えた。傘を差して土砂降りの雨の中で肩を震わせている。


「…すまねェな…」


急いで駆け寄ったものの、傘の下をおそるおそる覗き込むと、つい、と俺に横顔を向ける名無し。しかし、もう一方の手が俺に突き出される。その手に握られているのは青色の傘。傘を差す手は耳に当てた小型電伝虫の受話器。








「…そう、1時間以上待ってる」


「うん、そうだよね、普通の女の子なら帰る」





…どうやら電話越しに俺の話をしているらしい。


「え、俺なら待たせない?…ははっ、優しいもんね」





…俺?

話し相手は男かよい…




「おい、」


一向に振り向こうとしない横顔。突き出されたままの青い傘。


「…おい、名無し」


「ふっ、冗談」





確かに俺が悪かった。いきなり雨も降りだしたし、不機嫌になるのも分かる。…でもこっちを見ようともしねえのは如何なものか。俺はだんだんと苛立ちを覚えていた。


「…え?帰っちゃえばいいじゃん?」


「おい、名無し、いい加減にしろ…」


「ん…、でもさ、心配だったんだよね。…え、柄にもねェ、って失礼ね」





俺はあいつの受話器を取り上げようと伸ばした手を、止めた。「…いっつも、忙しい身だから…。私に会いにくるのだって負担かかってるかなあ、って…」


「…それに、マルコの事だから大丈夫だと思うけど、海賊で在ることに変わりはなくて、いっつももしかしたら、って思っちゃって…」



…知らなかった。こいつがこんな事考えているなんて。いっつもへらへら笑って、冗談言って、でもそんなところに、殺伐とした日々に滲んだ雫のように癒されていた気がする。


「…え?俺にしとけよって……?」


ぴくり。
思わず片眉が上がる。


…こいつはなんと答えるのだろう。









「……無理だよ、私が好きなのは、マルコだもの。
……それに、こんな雨の中、傘も差さずに来てくれた」



…漸く名無しが此方を向いた。その瞳にはうっすらと涙が溜まっている。





「…そういう人なの、マルコは」





そう言い放つと、僅かに相手の話し声が聞こえる受話器をがちゃりと置いた。





「…マルコの馬鹿」


「…待たせて、本当にすまなかった」


ぎゅう、と名無しを抱きしめる。雨に濡れて冷えた身体がゆっくりと暖まっていく。


「…マルコ、濡れる…」


はっ、と気付いて身体を離すと、くしゅん、と咳をする名無し。若干髪や衣服が濡れている。


「…もう今日は家に帰ろう。あったかいお風呂に入って、美味しいご飯作って、…ふふっ、シュークリーム食べて、そして暖かい布団に一緒にくるまって寝よう」


ひょい、っと自分の傘を差し出す名無し。…結局、相合傘になってしまった。


「ああ、朝まで一緒にいよう」





自然と繋がれた手と手が揺れる。明日の朝にはこの空には綺麗な虹が掛かっているだろう。









fin.
title 青白紅いろ
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3333recエナさん、ありがとうございました!!年下ヒロインにぞっこんマルコとのご指名、如何だったでしょうか…?ちょっと歳の差がありすぎるかな…このっ、マルコめ!また遊びに来てくださいね!!


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