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少年恋愛式

今日は入道雲までもくもくと顔を出して、ああ、夏が来てるんだろうなァ。…いや、もう夏か。


ぐっと片手を上に上げて伸びをする。食堂でコップいっぱい水を汲んでぐいっと飲み干す。キンキンに冷やしてあるもんだから、グラスの外側には汗みたいに水滴が付いていた。





ああ、今日は入道雲まででてきて、もう夏なんだなあ。夏っていうか夏島なんだなあ、か。


エースに呼ばれ、私もついでに彼に用事があったので、彼の部屋に向かっていると、途中でマルコさんの部屋を通り過ぎた。ドアが半開きになってたから、ちらっと横目で覗くと、腕を組んで椅子に凭れてこくこく揺れるマルコさん。机の前には航海図となにやらびっしり書かれた羊皮紙。いくら暖かいとはいえ、部屋の中は冷えるし、風邪引いちゃうよ。軽くドアをコンコンとノックしたけど、マルコさんは相変わらずこくん、こくんと頭を揺らすだけなので、私はブランケットを掛けるだけ、と自分に言い訳して部屋に入る。





俺は待ち合わせをしていたから、喉を潤してから直ぐに部屋に戻ろうとして、あ、いや今日はこんな暑いしな、と思い直し、冷蔵庫からグレープフルーツジュースが入った瓶を一本拝借して、部屋に向かった。





マルコさんの部屋は想像通り小綺麗で清潔感に溢れていた。置いてある家具も必要最低限しかない。どこかの誰かさんとは大違いだ。彼の部屋は本とか雑誌とか衣服とかが脱ぎ散らかしてあって、ベッドも起きたまんまだし、家具も無駄に多いし…あ、でも机の上だけはキレイにしてる。任務に関わる書類だけは無くしたことないもんな…



「名無し?」


ぎくり、


「…おはようございます、マルコさん」


「…なんでこんなとこにいるんだよい」


寝ぼけ眼のマルコさん、初めて見た。いつも細い眼が更に眠そうだ。言葉とは裏腹に口調は穏やかなものだった。よかった。私はほっと胸を撫で下ろす。


「こんなところで寝てたら風邪引きますよ」


私に背を向けて、ぐっと腕を上に伸ばしてふうっと息を吐くマルコさんに向かって、言う。ほんの少し間があって、くるりとゆっくりと振り返ったマルコさんの瞳には、なにか意地の悪い事を考えている光が宿っていた。さっきまでの眠そうな眼はもうそこにはない。


「…へえ?それで?」


「それでって…」


案の定口角を上げてにやりと笑うマルコさんにだんだんと距離を縮められる。その時ちらっとマルコさんが半開きになったドアを一瞥して、また笑った。そうだ、ドア、開いてるじゃん。誰かに見られたら。…どうしよう、エースと待ち合わせしてるのに。


「で、それでなんだよい」


「風邪引いてしまったら大変だと思って、ブランケットを掛けようとして…」


「…ほんとにそれだけかよい?」


「…え?」


じりじりとふたりの距離は詰められて、とうとう私は部屋の壁に背が付いてしまった。まずい、マルコさんは壁に両手をついて私は逃げられない。




「…ほんとうにそれだけかって訊いてる」


ぞくり。掠れた低い声が耳元で囁く。それでもこの声にからかいの色が入っていることを私は辛うじて認識する。この人は悪魔のように艶やかに誘惑するからいけない。


「…そうですよ、からかわないでください。私はエースと…」





「マルコ」


聞き慣れたマルコさんとは違う低い声。


半開きのドアに目線を向けると、そこには壁に背を凭れ掛けて思いっきりマルコさんを睨み付けるエース。その手には、汗みたいに水滴が浮かんだグレープフルーツジュースの瓶。


「…お出迎えが遅せえんじゃねえのかい?エース」


「最初から居たっつの」


そう言い放つや否や、瓶をテーブルにガタンと置いて、私の腕をぐっと引っ張って、私はその鍛えられた胸に顔が直接当たる。


そのままぎゅう、と強く抱きすくめられると、頭上から降る沢山の柔らかい感触。髪、額、瞼を通って、うなじ、そして首筋。


「ちょ、え?エース…?」


「マルコ、名無しは俺のなの。勝手に手ぇ出すんじゃねえよ」


いくらお前でも許さねえからな。


更に頬に口付けして、真っ直ぐマルコさんを見つめて、彼は言う。


「見せつけてくれるなァ」


ドアに足を向けながら、ふふ、っと笑ってグレープフルーツの瓶を掴んで、私の頭をわしゃわしゃと撫でるマルコさん。でもその時ふとその手が止まって、


「まあ、俺は名無し次第だけどよい」


そう言って私の髪に優しく柔らかいキスを落とした。その眼はすでに穏やかなものに戻っていた。








ばたん





張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れたみたいだった。ふうっと息を吐いたのは、エース。


「…あー、大人げねぇ…」



私の肩に自身の顔を埋める。くせっ気のある黒髪が頬をくすぐってこそばゆい。


「…エース」


「お前はさ、なんであんなことするかねぇ」


瞬間、がばっと顔を上げて私の瞳を真っ直ぐに見つめるエース。掴まれた肩が少し痛い。


「…やっぱお前は、マルコみたいな男のほうがいい…?」


さっきまでの強気は一体何処へ行ったのか。しゅん、としおらしく項垂れるエース。私は艶かしい悪魔より、純粋で真っ直ぐな瞳をした天使のような少年のほうが好きだ。





「エースが、いい」






その瞬間、驚いた顔をして、でも直ぐにふっと笑って私のおでこに自身のそれをこん、と付けると、私の唇と彼の唇が優しく触れた。











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(私に恋を掛けたら、ほらね、出てきた答えはエースだった)











「…はァ、やっとくっついたよい」


「恋のキューピッドかァ、そりゃおつかれさん、マルコさんよォ。…ホントはもったいねェ事をしたと思ってんじゃねェの?」





こぷこぷこぷ。


薄く黄色がかったグレープフルーツジュースがコップに注がれていく。


穏やかに光る眼でマルコはサッチを見て、微笑む。





瓶に浮かんだ水滴が、ぽた、と木製の机に落ちて、じゅっ、と吸い込まれた。











fin.
thanx カカリア
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1200recLISAさんありがとうございました!!マルコとエースに取り合いされる羨ましいヒロインを目指しましたが、如何だったでしょうか…?まあ、ヒロインもヒ
ロインですね。寝てる男の人の部屋に入ったらどうなるかくらい…続きは日記に呟きます笑 また遊びにきてくださいね!

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あきゅろす。
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