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ロストブルーの瞼に星屑1



なんで俺が?
どうしてこうなった?
こんなはずでは、なかったのに。

後悔ばかりの言葉が並ぶ。
自分でも分かっている。
それが、ただの虚無でしかないことぐらいは。
どんなに言葉を重ねたって現実は1oも変わりはしない


暗闇のベッドの上で溜息を吐く。
たった一度、たった一晩、
ただ言葉を交わしただけだというのに。

「…まさか俺がこんなことになるなんてねい」

「ただ辛いばっかりだろうに」




昨日は久々の独り酒だった

エースやサッチを含め数々の隊員から誘われたが、
一緒に飲む気にはなれなかった。
どうしても、自分ひとりで誰も自分を知らない場所で
ただ一人、酒を呑む時間が無性に欲しくなる時があるのだ。

白いドレスを身に纏ってひとり静かにカウンターに座る女。
その目はどこを見るでもなく、マスターと言葉を交わすでもなく、
普通の男だったら絶対に言葉を掛けるのすら、躊躇う雰囲気に、
自分と同じものを感じた。

同じということは、ひとりにしてくれということなのだろうけれども、
俺の思考が邪魔したが、
それ以上に言葉を交わしてみたいという欲求のほうが上回った。

「ニコラシカをふたつ」

女が顔をあげ、俺を見上げた。
俺は何も言えず、ただ隣に腰かけた。
彼女は俺を一瞥すると前を向いて再び自分のグラスに口付けした。
まるで、俺なんてこの場に存在していないかのように

なにがそこまで人を拒絶させるのだろう。

「似合わない」

ふ、と女は呟いた。
似合わない、何が…

「ニコラシカ」

女は相変わらず前をむいてグラスを弄んでいる。
言葉を掛けたということは、すくなくとも隣に座ることぐらいは許すということなのだろう。

「甘ったるいところが?」

「なんだ、自分でわかっているの」

砂糖を乗せたレモンを含んで、ブランデーで中和するカクテルをニコラシカと呼ぶ。

言葉とは裏腹に、彼女は全く笑っていない。

「初対面なのに酷い言葉だ」

「初対面だからこそでしょう」

「…どうしてひとりで?」

「あなたには関係ないわ」


「…それもそうだ」

沈黙。俺には一秒一秒が重く感じられた。
普段なら沈黙なんて空気と同じようなものだったのに

「なぜ男は結婚となると逃げ出してしまうの?」

「なんだよい、いきなり」

「いいから、答えてよ」

…なるほどな、
大体見当は付いた。
この質問はそっくりそのまま、彼女が遭遇した悲劇にちがいない。

「自由が奪われるのが怖いから?
ひとりの女を愛し続けるのがそんなに嫌?」

彼女は相変わらず前を向いたままだ。
バーテンもそしらぬ顔をしてコップを磨いている。

「まあ、そんなところだろうよい」

「初対面なのに失礼よ」

「初対面だからこそだろい」

そうだ。
もう二度と会うこともない。
どうせ一期一会。エースが茶化して使った諺が浮かぶ

どうせ一度きりの出会い。

「海賊は自由ね」

女はやっと俺のほうに顔を向けた。

「いつも取り残されるのは女のほうだわ」

俺を見つめた瞳がかすかに潤んでいるのが、はっきりと分かった。

「俺はマルコだ」

「しっているわ。私は名無し」

女はようやくかすかに微笑んだ。





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あきゅろす。
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