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ただそこにあるのは、

真っ黒な布に小さい金色のス
パンコールをばらまいたよう
な星空だった。
ただただ木製の板のごつごつ
とした感触を感じていたくて
甲板に寝転んだ。
風は夏の夜らしく生暖かい。
俺の上を滑っていった。

こんな日には思い出す。
あいつと見た地平線に沈む
夕陽の残像を。


こんな日には思い出す。
もうそれは、記憶のなかの、
それだけの
ものだということを。



夜風が俺の髪を撫でる。この
風に見覚えがある。昔あいつ
と見たオリオン座を。風が運
ぶ匂いは人の記憶を呼び覚ま
す。もう取り出すこともない
と片付けた、宝 箱の奥底の。


きっと冬になって白い朝のキ
ンとして曇った大気に触れた
ならまたお前を思い出すだろ
う。
お前と並んで歩いた
道端の風景を。




ああなんで
人は
あの時の匂いを嗅いだだけで
あの時と同じ空気に触れたと
わかっただけで

むかしに
いとも簡単に戻れるのだろう






深く
染みる

郷愁












きつく結んだ右手で眼を隠し
ても、涙が一筋零れ落ちた。


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あきゅろす。
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