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午前2時


ごろん。

…ごろん。


……だめだ。



眠れない。


真っ暗な夜の戸張に、一筋の月
光が、小さな窓枠から差し込ん
でいる。その光以外に、今の私
を照らす光はなく、私はただ、
暖かな羽毛にくるまれて、朝が
私の 頭を垂らすまでの時間を
持て余す。

いや、違う。
ほんとうはこんなことをして
いるぐらいに平和なほうがお
かしいのだ、この広い、
あてどない海の上では。

こんなときはいつも、睡眠薬
よろしく、彼のもとへ行く。
きっと彼もまた、この漆黒の
戸張の中で、意識を手放すの
が怖いに違いない。


とん、とん
「…マルコ」

生体反応無し。
一足先に旅立ってしまったか。

ふうっと、息を吐いて、食堂
のテーブルで夜空を眺めよう
と考えを改めていると、
がちゃり、と木製の年忌の
入った扉が開いた。
「……どうしたんだよい。
こんな夜中に。」
少し不機嫌さが声に滲み出て
いたけれども、眠れていたか
というとそうではなく、彼も
また夜を持て余していたのだ
と分かった。


「…無性に会いたくなったの、マルコに。」


……そうかい。
さして興味も無さそうにテー
ブルの上を片付けながら、
彼は、言う。
ポーカーフェイス。
彼を体現することば。

手土産として持ってきたバー
ボンの栓を開ける。キュッ。
かぷかぷかぷかぷ。


「…名無し飲みすぎるなよい」

ん。わかってる。
酔って、潰れられると、
困るのはマルコだものね。
彼は椅子に、
私はベッドの上に。
彼と私とのあいだには、扉と
同じ木製の小さなテーブルが、
ひとつ。



「…ねぇ、マルコ。」
…ん?
やっと、私に顔を向けた。
真っ直ぐと私に注がれる瞳に、
耐えられずバーボンを煽ると、
彼も目線を外して、
コップを空けた。
淡い橙色の照明に照らされた
黄金色の液体が、柔らかさが
伝わる唇を潤していく。


「私は、何故、
生きているんだろう」
唐突な問いに、僅かに片眉を
上げ、また彼の視線が私を捕
らえた。

「今が不満なのか?」

「ううん、そうじゃない。
自分が知らない世界の中を、
少しずつ知っていく、
楽しくないわけがない。
ただ、」
「ただ?」

二杯目のバーボンをすでに空
けたグラスは、彼の膝の上に
所在無げに彼の手に掴まれ、
私を見る。

「私は、
何かを成し遂げたい。」

彼は、ふっと片側だけ不敵に
微笑えんで、グラスに3杯目
のバーボンを無理矢理飲ませる

「ひとつなぎの大秘宝を見つけ
親父に忠誠を誓い、
威厳ある白ひげの名を背負う、
どれも意味があると思うがな」

「マルコは分かっているくせに
私が欲しいのは、名声でも財宝
でもないことは。
マルコも「…んっ」」


白いシーツに押し倒され、両
腕を上に掴まれた。元の体勢
に戻ろうと抵抗を試みるも、
更に強く押さえつけられた。
左右に首を振って抵抗する
私の唇に、唇が重なって、
黄金色の液体が流れ込む。
さっき想像していた通りに、
その唇は腕の力とは裏腹に、
優しく柔らかいものだった。

「名声も財宝も、
こころの渇きを、
癒しちゃくれねぇよい。
俺達は血は繋がらなくとも、
こころはちゃんと繋がってる。
この繋がりこそが、一番お前
が欲しかったものじゃ
ないのかよい」


わかってる。
ここは、気を許して、
心穏やかにいられる
唯一の、
そしてかけがえのない、
大切な、場所。





「'人の夢'、か」

彼は突然私を解放すると、
まるで何事もなかったかの
ように、またバーボンを自分に
流れ込む。何かを、宥めきかせ
ているように。


「夢や野心を語る時代に、
お前は
語るものがないとはな。まぁ
俺も人の事をとやかく言える
筋合いはないからねい」


「マルコの夢って、何?」
「そりゃ、親父の
「'マルコの'」……」








「……俺自身が
どうのこうのと、
もうそうは思わねぇよい。
ただ」
「ただ?」


「お前の夢を、
見てみたいとは、思うがよい」

fin.


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