05.葛藤、そして。 心地好い風が吹き抜ける屋上。だが今ここはそんな心地好さとは真逆の空気が流れているのを全身で感じる。それはもう、痛い程に。 「見てみぬ振りをして何かプラスになった?ハッキリと、自信を持って言える?」 この愛美の一言に「そ、れ…は」とだけ。俺はそれだしか言えなかった。 言葉に詰まり困惑する俺に対しアイツは表情も変えずに屋上を去っていく。その後ろ姿を日吉は慌てて追いかけて。 「…っ、くそ!」 行き場のない感情をぶつけるかの様に拳を壁に打ち付ける。 耳に届いたその乾いた音は妙に虚しく感じられた。 05.葛藤、そして。 先程の会話の内容をもう一度脳内でリプレイする。愛美の言葉一つ一つににギクリとした。し、何だか血が引くような感覚にまで襲われた。 「なにやってんだ、俺様は…!」 そう吐き捨て屋上を後にする。荒々しく閉められた扉の音が酷く響いていた。 何が「無茶苦茶になる」だ。もう既にここは無茶苦茶だと言うのに。 気付きたくなかった。気付かないようにしていた。なのに気付いてしまった。愛美の言葉によって。 本当はわかっていた。俺は、理由を付けて逃げているんだと。だけどそれを認めたくない自分もいて。 だから俺は何も出来ない自分を正当化していた。これでいいのだ、と。 逃げてはダメなのだ。それでは解決なんてする訳がない。動かなくては。でも、どうやって? 逃げていたのは事実だ。でも、それと同時に動かない事でアイツらを守っていたのも事実なんだ。 もし動いて井上が逆上したら? 俺はまだいい。 でも宍戸や向日は?皆、学園から消されてしまうかもしれない。 (アイツらには自分を守る術も井上に対抗できる権力も、ない) だったら、このまま動かない方が…、 「って、何を考えてんだ!」 また逃げるのか。これでは今までと一緒じゃないか。 本当にこのままでいいのか? 傷付いている奴がいるんだ。皆、真実が見えていないのだ。 それを見てみぬ振りをして、本当にそれでいいのか? 「…腐っても俺様は帝王、だ!」 今までの葛藤を消し去るかの様に、再び拳を壁に打ち付ける。そして、痺れるような感覚を拳に感じながら踵を返し、進路を変更した。 そう、大きく動かなくてもいいのだ。少しずつでも自分に出来ることをすればいい。その小さな行動が変化に繋がるのだから。 ならば、今やるべき事はただ一つ。 「失礼します」 ノックをするのも忘れずかずかと室内に入っていく。 「…、跡部か」 そんな俺に気付き、静かにこちらを振り返る人物こそ俺が今探し求めていた人だ。 「榊先生、」 「…なんだ」 「ご相談があります」 「ほう、珍しいな」 少し驚いたように目を見開く目の前の人物なんてお構い無しに俺は言葉を紡いでいく。 「マネージャーとして採用したい生徒がいるのですが」 この言葉を聞いた途端、次はこれ以上ないってくらい目を見開いた。そのくらい信じられかったのだろう。 しかし、今俺に出来ることといったらこれぐらいしかないのだ。 (せめて、君の手助けを) [*前へ] [戻る] |