「ガイ、なにが好きですか?」
「音機関だな! あれはいいぞ! まず素晴らしいのは……」
ガイは即答した。長く熱い説明と共に。

「ガイ、なにが好きですか?」
「俺は女性が大好きだ!」
ガイは即答した。やたらキラキラした瞳だった。

「ガイ、なにが好きですか?」
「魚類は大体好きだな。それがどうかしたか?」
「いいえ、なんでもありませんよ」

ジェイドは溜息を吐いた。まったくこの金髪の青年は、言ってほしいことを全く言ってくれない。分かってやっているのか……それならばかなり性質が悪い。

そもそもガイに、その手の言葉を期待するのが間違っているのかもしれない。ジェイドはそう思い始めた。ふと空を見上げると、真っ青なそれが目に沁みる。まるでガイの瞳のような、その色。それが愛おしくて空に手を伸ばしてみる、が、そんなものは掴めるはずもなく、ただ空をさまよう己の手に馬鹿馬鹿しさが込み上げてきた。それと同時に、夢を見すぎていると、そう思った。

叶うはずのない夢。叶うはずのない願望。
空を切る自分の手。空を掴もうとしても意味なんてない。そんなこと、理解しているはずなのに。

ガイの瞳に似た青が、ジェイドを惑わせる。怒りに燃えた青、呆れたような青、幸せそうに微笑む青。空の青は彼の青年の目の色を思い出させるのだ。

夢を、見ているのだと。
馬鹿馬鹿しくてどうしようもない夢を見ているのだと、思った。

ガイの恋人だということも、夢なのかもしれない。
そう考えたら途端に恐ろしくなった。そんなこと、受け入れられるはずなど無い。これは夢などではないのだ、自分はガイの恋人なのだ。

――そう思わないと、どうしようもない不安に押しつぶされそうだから。



そんなことがあってから数日後、ジェイドとガイは相部屋になった。思うことが無いわけではなかった。だからこそ、言ってみた。ほんの気紛れのつもりだった。

「ガイ、好きですよ」
「ああ、俺もジェイドのこと好きだぞ」

返された言葉に、ジェイドは目を丸くする。と言ってもそれも一瞬で、すぐさま両目を閉じ、薄く笑いながら肩をすくめるといういつものポーズをとって、言った。
「嫌ですねぇ、年寄りをからかってはいけませんよ? いきなり私を戸惑わせるようなことは言わないでください」
「別にいきなり言ったわけじゃないさ。ただ、ジェイドはいつも、なにが好きか訊いてきただろ? そうじゃなくて……」
ガイはそこで言葉を切ると、自分で言い出したことにもかかわらず突如顔を赤く染め、俯きながらぼそりと呟いた。
「ジェイドが、俺のこと、本当に好きなのか、聞きたかった、から」
途切れ途切れに呟かれる声は、とても弱弱しくて。しかし、それはジェイドを喜ばせるのに十分すぎるほどの威力を持っていた。
「ガイ……」
「わ、忘れろ! 忘れてくれ! なんか今になって恥ずかしくなってきた!」
その台詞にジェイドは意地悪そうな笑みを浮かべる。
「もともと恥ずかしがっていたでしょう?」
「っ!」
ただでさえ赤い顔をますます赤く染め上げるガイを見て、ジェイドは先ほどとは打って変わったような優しげな笑みを向ける。
「私も、ガイが本当に私のことが好きか訊きたかったんですよ。他ならぬガイの口から。ですが、いくら訊いてみても別のことを言うので、少々不安になってしまいました」
「……悪い」
「ですが――」
そこでジェイドは優しい笑みを止め、人の悪い笑みを浮かべ出す。だが俯きっぱなしのガイはそれに気付かない。
「ガイの気持ちも聞けたことですし……最近手を出せませんでしたから今日は好きにしてもいいですよね?」
「……は?」
ジェイドの発言をいまいち呑み込めていないガイの間の抜けた声がジェイドの鼓膜を震わせた時には、ガイは既にジェイドの腕の中だった。
「ちょっ……ジェイド、あんたは一体なに言って……!」
「今更でしょう? 今夜はガイを好きにしようかと思いまして」
「ジェイド! あんたって奴は――」
その先が紡がれることは無かった。ふざけたような口調とは裏腹なその赤い瞳が、ガイを射抜く。そしてガイは思ってしまったのだ。
ああ、もう好きにしてくれ、と。そしてそれを口に出してみる。居た堪れなさやら羞恥やらで一杯だったが、ジェイドは他の誰も見たことがないような優しげかつ妖艶な微笑みでガイを見る。それがガイを幸せな気持ちにさせる。そしてその気持ちがジェイドを幸せにさせる。

もう、不安など無くなった。互いの不安は消え去った。

「本当に、好きにしてしまいますよ? 止められないかもしれませんよ?」
「いいんだよ、それこそ今更だ。いいから、早く――」

ガイがそれを言い終わる前に、ジェイドはガイに口づけた。

「今夜は、好きにさせていただきますよ。ガイが思っているより……」
耳元で低く囁かれ、ガイはびくりと体を震わせる。が、それがいかにも面白いことであるかのような笑みを見せ、言うのだった。
「ああ、勝手にしろよ。ジェイド、俺はずっとあんたのものだよ」



その言葉にジェイドは思うのだった。
ああ、本当に性質が悪い人だ――と。





泉樹から6万打のお祝いで頂きました!ぎゃああ萌える、ジャンル違いなのに本当にありがとう!ジェイガイ、ジェイガイ!好きなものはなんですかは私の中の最高の口説き文句になりました、本当にありがとうございました^^幸せです!また下さい!

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