どのくらいの時間が経ったんだろう。生憎、時計が掛かっている壁は自分の背中側で、確認することができない。
仕事は終わったようだからジェイドの気の済むまで寝かせてやりたいとも思うが、眼鏡をかけたままだとか、この体勢だと逆に疲れてしまうんじゃないかとか、上にかける物がないから風邪をひいたりしないだろうかとか、色々と気になる。
やっぱり、一度起こした方がいいだろう。軍のシャワー室を使うのも、時間が制限されていると聞いたことがあるし。
そう思って、軽くジェイドの肩を揺する。

「ジェイド」
「…、!」
僅かに身動いだ後、ジェイドは勢いよく身を起こした。向けられた殺気に、頭で考えるよりも体の方が早く反応し、俺も弾かれたようにソファーから腰を上げ、剣に手を添えた。ジェイドの右腕は光を放ち、槍が具現化を始めているのが見えた。が、それは形になる前に消えた。
「ガイ、あなたでしたか」
槍と共に消えた殺気にほっとして、構えをとく。
危うくばっさり、いや、槍だからぐさりと殺られるところだった、と気付いて苦笑いを浮かべると、向かい合って立つジェイドは少し困ったように笑った。

もしかしたら、と思って訊いてみることにした。
「俺がここへ来たの、覚えてないのか?」
「……ああ…なんだかうっすらとそんな気もします」
ジェイドの視線は一度、テーブルの上に散らかったままの包装紙やティーセットに向けられてから、俺へと戻ってきた。
「ジェイドでもそんなことあるんだなあ。まあ、それだけ疲れてたってことか」
「私ももう年ですからねえ。昔ほど無理がきかなくなっているんでしょう」
まるで他人事のように言って、ジェイドはコキリと首を鳴らした。
「食事して寝ちまったんだよ、あんた。仕事は終わったみたいだったぜ。寝かしといた方がいいかとも思ったが、シャワーくらい浴びたいかなと思ってさ、起こした」
「それはありがとうございます。確かに、まだ間に合いますねえ」
ジェイドが壁の時計を見るのにつられて、俺も時計を見る。ジェイドが寝ていたのは1時間程度だった。

「せっかくの心遣いですし、シャワーを浴びてくることにします」
そう言いながら、何故かジェイドは俺を抱き締めた。
「旦那?言ってることとやってることが違うぞ?」
しょうもないおっさんだなあと、自然と笑みが浮かんだ。
「時間はまだ少し余裕がありますから。けれど」
ちゅ、と音を立てて軽いキスを唇に贈られた。
「1週間ぶりに会えたあなたに対する余裕はないようなので」
「…気障だろう、それ」
「あなたが言いますか?」
お返しに、ジェイドの下唇を唇で食むようなキスをする。むに、と柔らかな感触。ジェイドが間の抜けた顔で俺を見た。
「仕事、お疲れ様……ってことで。あと、仲直りな」
さすがにちょっと恥ずかしくて、早口に言った。

「……そういえば、喧嘩してましたっけ」
あんまりといえばあんまりなそのジェイドの言い方に、笑うしかなかった。だって、もううっすら気付いてしまったから。
「喧嘩なんかしてないだろ。俺が1人で怒ってただけなんだから」
にやり、と意地の悪い笑みを作った。ジェイドを真似たつもりだ。
「あんたの思惑通りに、な」
「おや、何のことですか」
もちろんジェイドがこの程度の揺さぶりで動揺するなんて、俺だって思っていない。
「ジェイド、そろそろシャワー浴びに行かないと、時間過ぎるんじゃないのか。話は落ち着いてからでいいだろ」
しれっと話を反らすと、ジェイドは何か言おうとしたが、結局止めた。
「そうします。ガイ、ここに居て下さいね」
「ああ、待ってるさ」
額にキスをしてジェイドは離れ、着替えを持って執務室を出ていった。

「さてと」
とりあえずテーブルの上のゴミを片付けて、もう一度紅茶を淹れる為に湯を沸かす。その間にカップも洗えば、準備万端だ。
またミルクをたっぷり入れてやろうと思い、さっきの残りを温める。
ふと、こっちからキスをしたときのジェイドの顔を思い返して、にやにやしてしまった。
あんな顔を見られるなら、たまにはこういうのも悪くないかもしれない。

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あきゅろす。
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