サンドイッチと、少し考えてミルクを買い、ケーキ屋にも寄ってジェイドが好きそうな洋酒のきいたチョコレートケーキを買って軍部へ戻った。ケーキは空っぽの胃に優しいとはいえないが、甘いものが好きなジェイドは、食欲が無くてもこれならば食べるかもしれないから。

ノックして、今度は返事を待たずに扉を開ける。
予想通り、休憩しろと言ったのに、ジェイドは机に向かったままで。
だけど俺が何か言うより先に、あと2枚でちょうど終わりますから、と言われて、それならいいかととりあえず飲み物を用意することにする。
「コーヒーと紅茶、どっちがいい」
「そうですね……コーヒー淹れて下さい。いつもより砂糖を多くして」
「ミルク、買ってきたけど」
「ならミルクティーがいいです。アールグレイで」
「はいよ」
そう言うと思った。とは言わなかったけど。用意しながら、なんだか余りにも、もうすっかりいつも通りなことに、ふっと笑えてきた。
結局、俺はこうしてるのが堪らなく心地好いんだ。

きっかり3分、砂時計の砂が落ちきったところでカップに注ぎ、温めたミルクを加える。
ジェイドはちょうど席を立ち、ソファーへと移動するところで、相変わらず仕事が早いなあと感心する。
まあ、そのせいで余計な仕事まで回されるから、こうして忙殺されているんだけど。
「いただきます」
律儀にそう言ってから、ジェイドはサンドイッチに手をつける。
「ケーキも買ってきたから」
そう言ってまだ開けていない箱を見せると、嬉しそうに笑った。やっぱり買ってきてよかった。

特に何を話すでもなくジェイドは黙々と食事を続ける。俺も別に話しかけなかった。
カップが空になったのに気付いて紅茶を注ぐ。相当疲れてるんだろう。俺が今まで見た中でも一番ぼんやりしているように見える。
サンドイッチを食べ終わったのでケーキを出してやると、それも黙々と食べた。

「ごちそうさまでした」
食事を終えたジェイドは、視線を上げて俺を見た。何も言わずにじっと見詰められて、ジェイドらしくないその態度に居心地の悪さを感じる。
ジェイドが俺を見詰める視線は複雑すぎて、何を考えているのか読み取れない。
俺が何か言うのも違う気がして、お互いに黙りこくって見つめ合ったまま、時計の秒針が時を刻む音がやけに耳についた。

カチャリ、と小さな小さな音を響かせて、ジェイドが眼鏡のブリッジに中指を添えて押し上げた。
「ガイ、こちらへ」
ようやく口を開いたジェイドに、ぽんぽんと軽く叩いて示されたのは、ジェイドの左隣。
逆らわずに隣へ座ると、ジェイドの両腕が腰に回された。てっきり抱き締められるかと思ったけど、少しいつもとは違って、ジェイドは俺の胸の辺りに頭を埋めるように擦り寄ってきた。
なんだか、猫が甘えてるみたいだと思って、ぱっと浮かんだその考えを慌てて打ち消す。
ジェイドの顔は、俺からは見えない。今、どんな顔をしてるんだろうか。

「ガイ、教えて下さい。どうしてここへ来たのか」
それは、さっきも聞かれて、後回しにした質問だった。
「そりゃあ…あんたと『仲直り』ってやつをしようかな、と思ってさ」
改めて言うのは少し恥ずかしかったが、誤魔化しても仕方ないので素直に伝えた。
「…寂しかったですか?」
「そんなこと………いや、寂しかったよ」
思わず「そんなことない」と言いそうになったのを抑えた。これを言ってしまったら、喧嘩したときの二の舞だ。
答えた直後に、ジェイドの腕に力が込められたのを感じた。
「私も寂しかったですよ。あなたに会いたかった」
その言葉は、ちょっと以外だった。そして、すごく嬉しいと思った。てっきりからかわれるものと思っていたし。
「…そうか」
「仕事が、こんなに長引くとは……思っていなかったんです」
「ずっと忙しかったのか?」
「ええ……だから」
ジェイドはこのまま眠ってしまいそうに見える。話し方もやけにゆっくりで、口調もいつものような人をくった感じは微塵もない。
「あなたに会いに、行けなかった…」
「うん」
「結局、寂しい思いを…させてしまうなんて…」
グローブをテーブルに置いて、ジェイドの髪を撫でた。やっぱり、少し指に絡む。
「せっかく…あなたを、怒らせた…意味が、ない…」
「え?」
ジェイドの言ったことが気にかかり、髪を撫でていた手が止まった。相変わらず表情は見えない。
「傍に居ても……居なくても………同じ、なら……」
「ジェイド?どういう意味だ?」
「傍に………おいて、…ば……った………」
体に感じるジェイドの重みが増えた。
ジェイドは俺の質問に答える前に眠りに墜ちてしまったらしい。
疲れきったジェイドを起こすわけにもいかず、俺は待つしかないことを悟った。

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あきゅろす。
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