「ああもう、あんたのそういうとこが嫌なんだ!!」
「あなたこそ、もう少し素直になったらどうですか」
「うるさい、この陰険鬼畜眼鏡!」
「子供ですか、あなた」
「いつも人を子供扱いしてんのはジェイドだろ!!」
「あなたの方が下なんだから仕方ないでしょう」
「そういうことを言ってるんじゃない!俺は、あんたに面倒みてもらわなくたって大丈夫だ!」
「おや、面倒をかけているという自覚があったんですか。なら、私が手を出さなくても良いように行動したらいかがですか」
「そっちが勝手に首突っ込んでくるんだろうが!」
「そんな言い方をするんですか?じゃあ、どうなっても知りませんよ」
「だから!あんたに面倒みてもらわなくたっていいって言ってるだろ!」
「…一人で眠れなくて私のベッドに潜り込んだ方の言葉とは思えませんねぇ」
「んなっ…混ぜっ返すな!!」

「…おーい、お前ら。ここが俺の私室だって忘れてんだろ」
陛下の声にはっとして、慌てて頭を下げた。
「あ…すっ、すみません、陛下!」
「忘れていたわけではありませんが?気にしていなかっただけです」
ジェイドはあくまで飄々とした態度を崩さない。それにまたむっとしたが、陛下の御前だと思い、なんとか堪えた。
陛下はジェイドの言葉に、そうかよ、と呆れたように言って、俺を見た。
「ガイラルディア、今日はあいつらの世話はもういいぞ」
立てた親指を反らして示されたのは、ぶうさぎ達。
「……失礼します」
ジェイドを睨んでからドアに手をかけた。背後から、実にのんびりとした声がかかる。
「ああ、ガイ。私、今日は帰れそうにありませんから。一人で寝て下さいね」
「っ、あんたなんか、もう、家に入れないからな!」
陛下の御前だ、という思いは、この怒りの前では小さくなってしまった。
思わず怒鳴って、扉だけは静かに閉めたが、足音が荒くなるのは仕方ないと思う。

そんな調子で、荒い足音を石畳の道に響かせて、宮殿前の庭園を横切る。いつもならば少し足を止める噴水の前もずんずんと大股で通りすぎ、ようやく歩調を少し緩めたのは、庭園を後にしてからだった。
(ジェイドの奴…!もう、今度という今度は絶対に許さないからな!いつもみたく丸め込まれて堪るか!)
歩きながらそう決心して、屋敷に着いてすぐに使用人を集めた。
こんなことをするのは初めてで、使用人達の表情はどこか不安そうに見えた。もっとも、俺が不機嫌な顔を隠しきれていなかったのかもしれないが。
そんな皆に、ジェイドが来ても屋敷に入れるなと言い渡した。その場に一緒にいたペールには何かあったのかと尋ねられたが、とにかく会いたくないと子供のように言い張り、苦笑されてしまったけれど、わかりましたと頷いてくれた。

自室に戻って、ぼすん、と仰向けにベッドにダイブした。
むしゃくしゃした気持ちはまだまだ収まりそうにない。
今日の喧嘩の発端は、ジェイドが旅の間のあれこれ(それは主に、恋人としての部分)を陛下に喋ったからだった。

旅の途中、姉上の最期の姿を思い出してから、眠れない日々が続いた。
その時に、既にそういう仲であったジェイドに頼ってしまったことは事実だ。
(……俺が甘えるのは、ジェイドだけなのに)
ジェイドだから弱い自分を見せられた。痛みを見せられた。恥ずかしいからという理由だけではなく、そんな自分は、他の人間には知られたくないのに。
(ジェイドのばか野郎っ)
思い返せば苛々は収まるどころか更に酷くなって、ぎゅっとシーツに爪を立てた。



それから3日間は、ジェイドに一度も会わなかった。
5日目に、ぶうさぎの世話をしているところに、ジェイドが陛下への書類を持ってきた。けど視線も向けなかったし、ジェイドも何も言わなかった。
そうして、喧嘩をした日から1週間が経った。
ジェイドは1度も俺の家に来なかったし、声もかけてこなかった。
…それは、なんだか、少し悔しい。3日もすればいつもみたいに機嫌をとりに来ると思っていたから、使用人達にわざわざ命じたのに、これじゃあ自意識過剰もいいところだ。
仕事中はなんとか避けて、家に来たところで入れなくて、少し困って、いつもより少しでも反省してくれればそれで満足だったのに、ジェイドはどこまでも俺の思い通りには動いてくれないようだ。

「何だよ、ジェイドのばか野郎…」
ベッドに突っ伏して呟いた声は、自分でもわかるくらいには力なくて、本当に嫌になる。
嫌だ。本当に嫌だ。いつから俺はこうなってしまったんだろう。
たかだか1週間だし、そもそも喧嘩してたし、会わないようにしてたのは俺自身なのに、どうして。
(寂しい、なんて、どうかしてるだろ…)

寂しい。

会いたい。

…触れたい。


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あきゅろす。
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