P*口先だけの愛に




「好きだぞ」
だからなんでそんな嘘がつけるんですか。返事代わりに溜息ひとつ零したら、嘘じゃないぞと頬を膨らました陛下と目が合う。ああ、その真剣な瞳が好きだ。陛下のよく動く口と反対にその色を失うことのない瞳は痛くて、けれども心地よくもあるのだ。その瞳がどれだけその言葉の真意を喋るのか、この人は何一つ知らないのだろう。だからこそそれが何よりも好きだった。
「ならば嘘ということにしてください」
「却下だ」
「陛下、」
「生憎冗談やら嘘などは好きではなくてな」
もっとも、弄るのは大好きだが。にかり、と笑う陛下に性格悪いですよと言えば、それでもジェイドよりはマシだろう、と自信満々に返される。それはまああの軍人と比べれば誰だって性格はいいだろうけれども(比べる相手が悪いだろう、なんて思うのは間違いじゃないと思う)
ぎしり、と音がして陛下がベッドから腰を浮かすのを確認するのとその歩みがこちらに向けられているのを理解するのはほぼ同時であった。陛下、少し余裕を失った声が口から出たことで自分が焦っていることに気が付く。陛下が触れようと伸ばしてくる手が逃げてしまいたいぐらいには自分はこの状況を危ないものだと認識しているのかもしれない。他人事のように思考が回って、褐色のその手が自分の頬に触れるその様までもが違うことのようなそんな感覚に余裕の無さを感じた。
(その手は嫌いだった。何故なのかと問われれば答えたくないが、けれど触れられるというその事実が嫌いなのか、と問われればそうとしか返せないような、そんな。触れることで愛を伝えようとするその手が)
「好きなんだ」
「だから、嘘を仰らないでください」
「どうしてそんなにも拒絶する」
「拒絶なんてしてません」
「それこそ嘘だろう」
お前は。
陛下が嫌な笑みを浮かべたのを逸らした視界の隅で確認した。釣りあげられたその口端のなんと恐ろしいことか。

「俺の告白を嘘だということにして受け入れたくないのだろう」

嗚呼この人はなんて聡い人なのだろう。その言葉に返す言葉などなく、近づいてくる唇にただ眼を瞑るしか出来なかった。受け入れまいと思ったそれをこの感情を、飛び越えられてしまうほどには自分は多分落ちてしまっている。

「ガイラルディア、好きだぞ」

嘘つき、本当は。
(誰よりもあなたがこの告白の答えなど求めてないくせに)



口先だけの愛に
(私は溺れかけてる)

なれ吠ゆるか



あきゅろす。
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