夕焼け誘惑デカダンス




がり、と唇を噛んでやる。それに目の前の青年は顔をしかめたがしかし何も言わずまた触れる口付けを受け入れた。唇に赤が付いてああ切れていたのだと知った。それは余りにも無責任かも知れないがそれで良かった。今日は責められたい日であったのだ。気分は酷く、どうであろうか。


「旦那、痛い」
「似合ってるからいいんじゃないんですか」

笑ってやれば青年はむ、と表情を変えたのち諦めた様にやれやれと首を振った。青年は喜怒哀楽を表すが平和主義なのか大人なのか、その感情のまま動く事はしなかった。必ずしも一歩引くその姿勢は自分が決して行うものでは無く、また彼が歳の割に出来た人間であることを表している様であった。それが悲しくてまた物足りなさを覚えた。唇は赤く濡れた形跡があり恐らくは自身の唇もまたそうなのであろう。舐めとればやはり鉄の味がした。それを美味しいとさえ思った自分は今日に限らず狂っている様な気がした。どうした、と問う青年に何がですかとしらばっくれれば青年は怪訝そうに表情を歪めた後、何でもないならそれでいいと視線を反らした。唇に日に焼けてない白い指先が触れて赤が移る、ああやっぱり切れている、青年の声が耳に入りそうして目を閉じた。この日に血を見るのはさあ何度目になるのだろうか。数える趣味等無ければ職業柄、それは数えても仕方ない事ではあったのだ。ただそれでも目の前の青年に重ねたのは在りし日の恩師の姿であった。ジェイド、名前を呼んだ青年の金糸に触れて何でもないんですと笑ってみせた。聡い青年の思考を今日程に悲しく思った日は無かった。
今日は、


夕焼け誘惑デカダンス


「先生、お休みなさい」
誰よりも尊敬した貴女は今日に眠りに就いた事実。如何して彼に言えようか!
(こんな汚い自分を)
(包み込むんだろう)
彼の優しさが痛かった。


ルーシー、ペレストロイカ




あきゅろす。
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