どうか、正しく淀んでくださいますよう



ルークに好きだと云われた。雨の降っている夜であった。笑って誤魔化した。ルークは怒って部屋を飛び出した。朝まで帰ってこなかった。



「ガイ、どうかしたの」
ひょこりと首を傾げて顔を覗く彼女に気付いて拒絶反応の儘、後ろへと退いた。うがぁぎゃぁあああ。変な悲鳴に前を歩いていた仲間達が振り向いたがそれどころでは無かった。アニスは相変わらずに可愛らしい顔をきょとんとした儘にしていたが、然し直ぐ様に苦笑のそれへと変える。結構傷つくんだけど。そう言って前を向く。で、大丈夫なの、その質問が何を問うているのかが分からなかった。ただ大丈夫だよと返事を返した。
如何やら上の空だったらしい。言われるまでに気付かなかった自分に情けなさが出てくる。はあと溜め息をひとつ。そうして一歩前に出して先程の光景を思い出してみればひとつだけ矢張り納得のいかないものがあったのだ。アニスが歩きながらちらちらとこちらを心配するのを申し訳なく思う。こんな小さな子に心配をかけさせて自分は本当に何をしているんだとも思う。アニスに、女性に触れれたならばその頭をぽんぽんと撫でて、心配しなくて大丈夫だよ、ありがとう、と言えるのにそれすらも出来ない。自分の女性恐怖症には本当に困ったものであった。前を歩く仲間はそれぞれに楽しそうに話をしていて、彼女もそれに時折混ざる。楽しそうに笑うのに、それでもこちらを心配してくれている。本当に、情けなかった。
これじゃいけない、と顔を掌で覆う。真っ暗な視界の中、目を瞑れば若干ながら欠けていた冷静さも取り戻せるような気もした。目を開ける、そうして真っ直ぐに視線を向ければ、一番前を歩くルークの背中が目に入る。それは振り向きもしなかった。

「ガイもルークもどうしたのさ」
聡い彼女がむくれたように呟いたのを小さく謝ることしか出来なかった。


「それじゃあ今日の部屋割はこれでいいかしら」
「賛成!」
そうして、ばらばらと散らばる。
割り当てられた部屋は一人部屋であった。ルークとガイは同じ部屋でいいよね、アニスとティアのその提案にジェイドに話があるからとルークがジェイドと一緒がいいと言ってそれで一人部屋が割り当てられた。顕かに自分を避けるルークに仲間も首を傾げてこちらをみやるのに苦笑して誤魔化す。じゃあ俺は一人のんびりさせて貰うよ。鍵を受取って、そうしてあとは女性達とジェイドが鍵を受取ってそうしてこれでいいかしらとのティアの問いかけにアニスだけが元気よく返事をする。早々に散らばって、然し、何かを言いたげにナタリアがこちらを見たが敢えて無視を決め込んだ。恐らくにルークと自分の事であろう。喧嘩でもしたと思われているのだろう。それでもいい。だけどこの問題だけは如何にも解決出来そうには無かった。ただもやもやにぐちゃぐちゃに思考が混ざるのを如何にか耐えている自分にとってそんな余裕等無かったのだ。だから何か言いたげにしたナタリアが伸ばそうとした腕を途中で下ろしてくれた時助かった。
割り当てられた部屋へと向かう。そう言えば今日の買い出しはルークとティアだった。思い出して何故か寂しさが急に襲ってきたがそれに如何することも出来なかった。

恐らくにこれからもルークは自分を避け続けるのだろう。何時か、そんなこともあったさ、と笑える時が来るまで、自分とルークには顕かに距離が出来るのだろう。それも仕方無いと思ったのだ。ベッドへとダイブする。柔らかい白が自分を包んで、そうしてやってきた眠気に身を委ねる。夕飯は食べる気にはならなかった。


それなのに。

息苦しさがあった。呼吸が出来てない感覚が指先を痺れさせる。如何してか、ぼんやりと浮上する思考に唇に違和感があった。そうして眼を開けた先には、泣きそうなルークの顔が近くにあった。ガイ。或いは泣いた後なのかもしれない。そうして自分が先程まで何をされていたのかという結論に辿り付いて思考は真白になる。キスされた。口をぱくぱくと開閉させて、そうして絞り出した声はルーク、と名前を呼ぶだけのものであった。ガイ。切なげなルークの声に思考をどんどんと落ち着きを取り戻す。朝、真昼、夕方、あれだけに自分を拒絶したルークが此処にいる。嬉しいやら吃驚やら複雑な気持ちに戸惑いながら然し視線だけは逸らすことは忘れたかのようにルークに向けられる。ただ矢張り吃驚であったのだ。
視線が交る。そうしてもう一度唇が触れる。唇に。柔らかい、瑞々しい唇が、上唇を挟んだり、触れるだけのキスを繰り返したり、僅かに噛みついたりと、繰り返す。そうして自身の思考は到頭に麻痺を起してしまったのしれない。ルークの唇が小さく震えてそうして触れることにどうしてか(ああ、如何かしてるのだ、自分は)
漸くに離れた唇がもう一度ガイ、と名前を呼ぶ。それに思い出したかのように冷静に、何してるんだ、と声を荒げれば、ルークが悲しそうに表情を歪ませた。そんな顔がさせたいわけではないのに。
「ガイ、俺、俺」
ぽろり。涙が零れおちる。ぽたぽたと白いシーツに染みを作っていく。ガイ、俺、ガイが好き。次いで告げられた言葉にどうすることも出来なかった。昨日の様に笑って誤魔化すことも出来なかった。ただ、それをあんまりだと思ったのかもしれない。それでも、僅かにたじろいだ身体をルークに抱きしめられる。ガイが好きなんだ!叫ぶようなそれに矢張りどうするべきか分からなかった。泣いて愛を叫ぶルークをどうすればいいのかなんて(自分に分かる筈もないのだ)
馬鹿だなあって笑えれば良かったのか、何言ってるんだと怒ればいいのだろうか、俺もと言って愛を囁けばいいのだろうか、わからない。
ただそれでも泣いているルークを愛しいと思う気持ちだけはあった。それが答えだなんて思えなかった。
「ルーク!」
抱き締める。身体は自分よりも小さいのに!(ああ如何して)







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