打ち抜かれて、知る



「好きだ、ガイラルディア」
「忘れてくれ」

弾丸の様に打ち抜かれてしまったわけじゃなく体内の中でそれは形を残していながらじわじわと蝕む其れを自分は酷く鬱陶しく寧ろ忘れてしまいたいぐらいには痛みを帯びていく。いっそ打ち抜かれてしまった方がよかったなんて思って(それは後悔でも、ましてや願望でも無い)未だ痛みを引き摺る脳内を只管に揺さぶって考えないようにする。そんな事は不可能だった。

事件が起きてまだ一日しか経っては居らずしかし傷痕はどんどんと拡がるばかりで痛みに似た感情が増えていく中、その傷口を広げてしまうであろう皇帝の私室へ自身は向かう、拒否は許されない。深呼吸をしてこんこん、とドアを叩けば珍しくも返事は返ってこなかったがそれはそれで都合がいい、扉を恐る恐る開けて中を窺い見れば其処には何時もなら笑顔で迎えてくれる皇帝など存在しなかった。
(ああ、よかった)
それは不敬罪極まりない考え方かもしれないがそんなことを気遣うほどの余裕等自分の脳内には無かった。擦り寄ってくるブウサギを確認して頭を撫でてやればぷぎ、と小さく鳴かれた、それは酷く癒しに思えた、成程皇帝と言う問題事だらけの職業柄であればこのブウサギに癒されて可愛く思えてしまうのは納得だ、納得だけれどもやはりこの数は多すぎだろうとも思う。
適当に相手をして改めて部屋の中を見ればやはり皇帝は居なかった。それが決して珍しいことではないこともまた脱走でもしているのではないかということが考えられることもガイには分かっていた。がしかし探しに行く余裕等無かった。其れは職務放棄だとジェイド辺りに言われそうだがしかしどうしても行きたくないものは行きたくなかった。我が儘なんて、久しぶりかも知れない(それがこんな我が儘だなんて)(あまりにも情けない)
陛下。呼んでみるが返事はない。安堵の息を吐いて、とりあえず仕事をしようかと部屋の中を歩く、ブウサギを集めようとしてしかし机の上の書類が目に入る。ああこれ今日までじゃないか。提出期限の日付はまさに今日を指していてその書類の何処にも陛下のサイン等無かった。或いは、と考える。陛下が自分に会いたくなくてこの仕事を放り出しているのだとしたら(いやそんな無責任な方ではないのは分かっている)机の上のその紙を取ってやはりサインが無いのを確認する。一体これは何の書類なのだろうか、一番上の文字を見れば予算について、下には難しい話が続いていた。3行ほどで読む気を無くしてそれを机の上へと戻す。何故か其処に陛下の文字が何処にも無いことが酷く悲しく感じた。陛下の文字を見たくてしょうがなくなった。
「まるで病気だ」
あれだけ陛下に会うのが億劫だったのにそれでも只管に求めてしまう自分の矛盾が酷く可笑しく思えた。ああそうだ、ブウサギの時間までにはまだ余裕があるのだ。す、と前に出した足は意外にも軽かった。
(忘れてくれ)
告白された事実よりも自分はその言葉が何よりも(弾丸に思えて仕方なかったのだ!)


打ち抜かれて、知る





あきゅろす。
無料HPエムペ!