溺れるように、恋



「おやー、水浸しですねぇ」

陛下の私室。愉しそうな男の声にげんなりする。雑巾を持った右手を左右に動かして水を吸い取っていく。そうしても中々に綺麗にならない床に嫌気もさしてきた。

「一体これはどうしたんですか」
「バケツが倒れたんだ」

本当は。ブウザギがバケツを倒したのだが、説明するのが面倒であった。件のブウサギ(恐らくにサフィールなのだろう)はアスランと仲良くふごふご鳴いていた。嗚呼、和むのは和むのだが、然し今の状況ではそうも思ってはられなかった。
水でべちょべちょになった雑巾を持ち上げてバケツの上で絞れば、じゃあああ、と多少濁った水が落ちた。額を腕で拭って前を見ればまだまだに水は残っていた。

「大変ですね」
「なら手伝ってくれ」
「お断りです」

にっこりと笑っているだろうジェイドは斜め後ろでただつったっているだけであった。
床に広げた雑巾を動かしてもう一度水を拭き取る。其の様子を、灰被りの娘みたいですねと笑ったジェイドは一体何を考えているのだろうか、馬鹿らしい。
幼い頃に読み聞かされたシンデレラの話を少しばかり思い出して、苦く笑ってやった。

「ということは陛下とガイが恋人同士になったりするんですか」
「しるか」
「それは嫌ですねぇ、あ、ガイ、私となら浮気してもいいですからね」
「誰がするか!」



溺れるように、恋

酸素



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