頼む、一発殴らせろ






「だから、少しは隠せっていってんだ!」

強くテーブルを叩いた後、本気で困ってるんだとガイはジェイドを睨みつけた。
「何も害があるわけじゃないでしょう」
「ある、大いにある、頼むから」
「いいえ、そうでなく。私に害はないでしょう、という事なんですが」
「あんた最低だな!」
わかってたけど!そう言って怒鳴るガイにジェイドはやれやれと漸く読みかけの本を閉じることをした。それで、なんですか。そう聞いたジェイドにあんた聞いてたよな、と若干口端を引き攣らせながらガイはもう一度ジェイドへと抗議した。

ジェイドと俺の関係を疑われているから、少しは隠すことを覚えろ。
ガイの言い分はこうだった。

聞けば、昼ごろ宿での食事を済ませた後ルークに問われたらしい。
「ガイはジェイドと、その、付き合ってるのか」と。
その言葉にガイは豪くショックを受けたのだろう、何処でそんなこと聞いたのか、と問うたら、吃驚した後「いや、俺が思っただけなんだけど」とおろおろしながら返されたのだという。
必死で否定して(というより嘘をついて)(どうやら罪悪感があったのだろう、少し辛そうにここの説明をしていた)ルークを説得させて、そうだよな、とルークが頷いた後。
言うなれば大きな岩が上から落ちてくるぐらいには衝撃的な一言がガイを襲ったらしい。

「アニスとナタリアがジェイドとガイは両想いだとか言ってたからさ、すっげー不安だったんだ」
へへ、よかった、と笑うルークの言葉などガイの頭には入らなかった。


「だから、もうやばいんだって、本当に!」
「別に言うほど危ういこともないでしょう」
「あんたなっ、恥ずかしいとか後ろめたいとかそういう気持ちはないのか!」
「ええ、全く」
ジェイドのその返答を聞いてガイはがっくり、と項垂れた。あんたに普通の精神を問うた自分が馬鹿だったよ、と頭に手をやるガイに失礼ですね、とジェイドは笑った。
「そもそも、あなたは何をそんなに恐れているんですか」
「そりゃあ、色々だろ」
そもそも男同士というのが可笑しいだろ、とガイの質問にそうですかねぇ、と首を傾げる。
「軍では普通ですよ」
「…じゃああんたはその軍人に囲まれて恋でもしたことあるのかい」
「いやですねぇー、御免蒙りますよ」
虫唾が走ります、と語尾にハートマークでもつくんじゃないかというイントネーションにプラス極めて笑顔でジェイドは言ってのけた。
ほらみろ、嫌なんじゃないか。ガイがそう突っつけば、まあ非生産的ではありますよね、とずれた返答が返ってきた。
「それでも、別にあなたとなら街中で後ろ指差されてもいい、と私は思ってます。好い虫除けにもなりますし」
「虫除けってなんだよ、いや兎も角それは置いといて。そりゃあ俺だってそれぐらいの気持ちがないわけじゃないけれども」
ただ、その、と口ごもるガイの言葉の続きを待ってやる。
「恥ずかしい、というか、ルークに知られたくないというか、」
「ルーク、ですか」
少々気に食わないとジェイドは足を組み直した。
何かとガイがルークを気にしているのは知っていたのだが(というか明らかである)こんな時までルークのことを考えるのは些か考えものでもある。
別に、見せつければいいんじゃないんですか、とジェイドはけろりといってみせたら冗談じゃない、とガイが勢いよく反論した。
「俺は、ルークの元教育係兼使用人としてそういう世界を知ってほしくないんだ!」
「そんなの親のエゴでしょう」
子供は知らない間に知恵をつけて汚い世の中を独自で学びますよ、と投げやればあんたまるで世話したことがあるかの言い様だな、とガイが若干疑いながら返事した。というか自分はルークの親ではないと否定すれば、変わりないでしょうとジェイドはその主張を蹴った。
「そもそも親友がホモだって、否、断じてホモじゃないけど!そんなの知ったらあんた嫌だろ」
「陛下が、ですか。鼻で笑いますよ」
「・・・ほんとあんた最低だよ」
なんでこんな無駄な話し合いをしてるんだろ、俺。ガイの独り言に近い呟きにジェイドはなんででしょうね、と白々しく笑った。


「兎に角、ほんと少しは隠してくれ」
「善処します」
そういってジェイドは読みかけの本の栞の挟まれているページを開いた。ぱらり、とページの捲る音に、それじゃあ部屋に戻るよ、とガイが背を向ければ呼び止めるようにガイ、とジェイドが名前を呼んだ。
なんだよ、ガイの問いかけにジェイドは先程思い出したんですけど、とにっこりと笑った。

「アニスにガイと付き合ってるっていったの私でした」
「・・・旦那」



頼む、一発殴らせろ
夜風にまたがるニルバーナ



あきゅろす。
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