左の臓器を持ってかれた



はいどうぞ、と。

目の前の机の上にことん、と音を立てて置かれたそれはどうやら自分へと渡されたものらしい。透明なガラス瓶の中に半透明な黄色の球体(間違いもなく飴玉であろう)がごろごろと隙間を作らないように詰め込まれている。ぎゅうぎゅうと詰め込まれているそれを見て、然し直ぐ様に視線をジェイドへと戻す。ジェイドは微笑を浮かべており僅かにだが愉しそうにでもあった。意味がわからない。ジェイドの口元がゆうるりと弧を描いている、その意味が分からない。ガイは僅かに首を傾げた。なんだいこれ、とガラス瓶を指して問えばジェイドは視線を変えることなく飴ですがと当たり前な返事を返すだけであった。そうじゃないのだ、聞きたかったのは。今日は何の日だ、分かりませんか、ああ、ホワイトデーですよ。そうして漸くに合点が行ったガイはもう一度飴玉を見て別によかったのにと漏らした。バレンタインデーに自分は確かにチョコレートを渡したが然しお返しが欲しかったわけでは無かった。だから、別に、と返したガイに気持ちですよ、嬉しかったのでねとジェイドがやんわりと笑えばガイは躊躇いの後にありがとうと困ったように笑った。(それは別に困っていたわけではなくて)(ただ単に恥ずかしかったのだ)
漸くに黄色だけが詰め込まれたその瓶へとガイが手を伸ばす。剣を持つには綺麗な長い指先が黄色い球体を摘んで瓶から取り出す。そうしてそれを口の中へと放り込めば酸っぱい味が口の中へと広がった。思わずに顔を歪ませる。生理現象だ、仕方ないだろう。

「旦那、これ」
「察しの通りです」

檸檬味ですとにいっこりと笑った(悪魔だ)(鬼畜だ)(鬼だ)ジェイドにガイは若干涙目で睨み付けてやる。檸檬が嫌いだとは知っているくせに。舐める事を止めて頬へと寄せてしまえばぷっくらと頬が膨らんだ。どうしてくれるんだとジェイドへと突っ掛かれば椅子から立ち上がったジェイドが数歩近寄ることで距離を縮めた。目の前に立つ。そうして屈んで近寄る顔が、唇が優しく触れて舌が僅かに開いた口の隙間から差し込まれる。器用に口の中の飴玉を奪い取って離れた直後意地悪に、然し心底愉快そうにジェイドは笑った。

「キスする口実には持って来いでしょう」



左の臓器を持ってかれ
にやり



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