胸骨のその奥で



命令だと言ってしまえばガイに拒否権等は与えられない事は明らかであった。
命令と付け加えるだけで目の前の青年は何だって従うのだ。なんと簡単な事であろうか。自身の気紛れであったって、或いは暇潰しであろうと、それだけで渋々と従う青年にルークの口は弧を描いた。
命令だからな。はいはい分かっていますよ。
そんなやり取りの後、豪華なベッドに座っているルークの目線に合わせてガイは身体を屈めた。それをじい、と見てやれば恥ずかしそうに視線を逸らしながら、然し文句等は言わない。後頭部をがしがしと掻くのはガイが困った時によくする癖である。ということは今ガイは困っているのだろう。常であれば、女性を天然で口説き落としているくせに、こういうときに恥ずかしいと困るガイの矛盾が可笑しかった。
そうして漸く決心したように目線を合わせたガイの顔が近づいてくる。目は瞑ってやらない。決してこれは意地悪ではない。ただ、どういう顔をするのか興味があったのだ。
寸前に目を瞑って柔らかなガイの唇がルークの唇へと押しつけられる。むに、と。そうして数秒して離れた唇が、ほう、と息を吐いた。これでいいか、と疲れた様に吐き捨てたガイに満足気に笑ってやった。
それでも唇が離れていく時の淋しさだけが胸を締め付ける。ああなんだこれは。


胸骨のその奥
酸素



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