あなたの腕に愛されましょう



ごろり、と寝返りをうってガイは後ろへと座るジェイドへと振りかえれば、ジェイドは相変わらずに淡々と本を読み続けているだけであった。ぱらり、と捲られる度になる紙の音が耳へと入る度に、ああこれが眠くなる音なのであろうかと、ガイは僅かにだったが、重くなった瞼を数回、ぱちぱちと瞬きをすることによって誤魔化す。そうしてまた、ぱらりぱらり、と音が部屋の静けさを破る度にガイはジェイドをじい、と見やる。これじゃ何処の乙女だと苦笑してガイはもう一度寝返りを打った。
元々、読んでいた雑誌(月刊の譜業雑誌は既に幾度も読んだ後であったので面白さには欠けるものがあった)をもう一度開いて、ガイは自身の中でもやもやとする感情を誤魔化す。それは寂しいとかそういう感情であった。
構って欲しいとは口に出して言わないが、それは望んでいないわけでは無かったのだ。だからと言って伝える気もないガイにとってみれば、やはり、寂しいものの、どうでもいいものでもあったのだ。ぱらぱらと、早く捲られる頁のたてる音はジェイドのじっくりと読むそれとは矢張り違った。束になって落ちてくるその頁にガイは雑誌を軽く投げ飛ばしてしまいたいぐらいにもどかしさ(というには可笑しいのではあるのだが)を覚えていたのだが、だからといって本を投げてジェイドの気を引くなど馬鹿らしいとも思っていた。大体それでは余りにも子供っぽい。
これは、寂しいというよりは退屈と言う方があっているのかもしれない。暇であることは間違いは無かった。今頃ルークはティアとお茶でもしているのだろうか。頬を赤らめながら宿屋から二人して出て行ったルークとティアを思い出して、ふ、と感情が柔らかくなる。奥手なルークの恋が今日明日で成就するとは思ってはないが、然しああして二人して仲の良いところを見れば、元教育係としては嬉しい気持ちでもあった。
いっそ、追いかけちゃう、とふざけたアニスの言うとおりにそうしてしまえば、今の退屈は吹き飛んでいたかもしれない(そんなことは絶対にしないが)
三度目の寝返りを打って、もう一度ジェイドを視界へと入れる。持っていた本を胸元に広げて置いて、ジェイドの背中をじいとみる。意外にも広い(といっては失礼かもしれないが)(彼は細いというイメージが矢張りあった)(術者だという偏見であろうか、ジェイドだって軍なのだ)それを、指でなぞろうとして止めた。今日の自分は気持ち悪いほどに乙女の様で、思わず失笑した。ああ気持ち悪い。両手で本を持ち上げて、(開いていたページにはシェリダンの技師の名前がずらりと載っていた)見ているふりをする。退屈だというのに脳内に全く入ってこない情報では余りにも意味はない。
漸く降参したようにガイはむくり、と起き上がる。目の前のジェイドの背中へと圧し掛かって肩へと顎を乗せてジェイドの読んでいる本の内容を盗み見る。文章の羅列しかないそれは矢張り本に興味等あまりない自分からとってみれば、矢張りどうでもよかった。頭に入ることも無かった。くすくすと苦笑するジェイドの名前を呼んで、本へと手を伸ばす。取り上げてしまえば、ジェイドが柔らかい笑みを浮かべたままにこちらを見やるのを、矢張り悪いとは思いながらも嬉しく感じてしまった。
「やっとですか」
ジェイドの言葉にガイはきょとんと呆気に取られたが、ああなんだ、それではずっと試されていたのか。性質の悪い。ガイは顕かに嫌そうに顔を歪めてジェイドを見たが、すぐさまにその表情を苦笑のものに変える。あんたな、と小さく笑うガイをジェイドは片手で抱きよせて、唇へと触れる。
「待つのは中々に楽しかったですよ」
ただ、今度は早く甘えてくださいね、と。優しく触れるだけの唇にガイは幸せそうに眼を閉じた。考えて置くよ。



あなたの腕に愛されましょう
選択式御題





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