いとしいテディ、
ぼくをおいてどこへゆくの




好きなの、と女性が迫りつくのが見えた。急激に冷えて行く身体に脳内だけが活性化する、
ああ、終わった。



「ガーイ」
どうしたんですか。愉しそうな軍人にたまには一人で呑みたい夜も有ると告げれば寂しいじゃないですかと笑われたがそれに綺麗に笑い返す事は出来なかった。ただ目の前に当たり前の様に座る軍人に此処に来るのは間違いだろうと笑って遣りたかったが然しそれは余りにも幼稚な気がして止める。月は異様に綺麗でそれがまた憎らしかった。
「言わなかったか、一人で呑みたいんだが」
「それでも私は貴方と呑みたいんですよ」
「そうかい」
持ってきていたグラスにジェイドは酒を注ぐ。嗚呼これ好きなんです、とジェイドはラベルを見て微笑んだ後それを口にする。それが毒で有ればいいのに、と考えて馬鹿な考えだと自嘲した。
「それで、どうしたんだ」
「ガイと呑みたかったんです」
それだけですよ。ジェイドは視線を少しだけ逸らしてから然ししっかりとこちらを見た。気持ち悪いな、からからと笑ってやればジェイドは気持ち悪くて結構とグラスを回す。いいじゃないですか、今夜は満月ですからね。其の言葉にああ満月だから月が綺麗に見えたのかと納得する。部屋の中は蝋燭が僅かに照らすだけで他には何一つ光等無い筈であったが、月だけが異様に照らすものだから淋しかったのだ。
「で、ガイは何で一人で呑みたかったのですか」
「そういう気分だったのさ」
「そういう気分とは」
「つっかかるな」
「気になるものですから」
「そうか」
しつこい男は嫌われるぜ。言って後悔するのは自分であった。どちらがしつこいのか何て分かっている。終わって見ても未練たらたらな自分に吐き気さえもがしたが然しだからといって何に成るわけでも無く、酔い潰れる為に次々にへと酒を口に運ぶ。が悲しきかな、こういう夜に限って中々に眠気等は遣って来てはくれなかった。
嫌われては困りますね。愉しそうに笑う男にまたこのおっさんは何を言っているのだろうかと思ったが敢えて飲み続ける事で無視してやる。そうでもしなければこの夜を抜ける事は出来そうに無かったのと、またジェイドから昼間の出来事を聞く事は耐えれなかった。ただひたすらに飲み続ければ、ジェイドは何も云わずただ熱の籠もった視線をこちらに向けるだけであった。



「も、寝るぜ」
暫くして。
ふらふらな足取りで部屋に備え付けられていたベッドへと足を運ぶ。それを支える様にジェイドに手を伸ばされたのが癪で払ってやれば一瞬驚いた後に然しジェイドはまたも腕を伸ばす。ベッドへと誘導されて冷たいそのシーツへと身体を横たわらせば隣へと座る軍人に部屋に帰れよと言って遣る。何でですか。くすくすと笑う軍人に腹が立って何でもだ、と背中を叩いてやろうとすればその腕を捕まれて押さえられる。のしかかってくるジェイドに咎める様に名前を呼んでやれば何がいけないのか問うて来たもんだからうっかりと口を滑らせた。昼間の女性に悪いだろう。それに矢張り、とより愉しそうに笑ったジェイドに怪訝そうに見上げれば優しい口付けが落とされて、あれは断りましたよ、と告げられた、が然しそれが問題ではなかった。
何でも無いんだ。小さく答えればそうですかとジェイドもう一度唇を触れさせる。何度も何度も触れるだけの唇が喉元に落ちた時、我慢出来なかった滴がぽたりと伝った。それに気付いたのだろうジェイドが不思議そうにこちらを見やるのを腕で視界を塞ぐ事によって遮った。ただ、酷く惨めであった。



いとしいテディ、
ぼく
をおいてどこへゆくの

9円ラフォーレ






あきゅろす。
無料HPエムペ!