あの時、群青は笑っていたか



ざあああ、と。
雨が降る中必死で走る、目的は青い軍服の赤目をした男性。それが泣いているような気がしたのだ。


理由等は無かった。
ただ、数刻前に思い付いたかのように青は外に行きます、と椅子から立ち上がった。陛下に会いに行くのかと問えば違いますと返される、ならば仕事だろうか、或いは気晴らしか。分からなかったが故に聞こうとして止めた。青は干渉されるのを嫌っているような気がしたのだ。何よりその場の雰囲気がそれを許さなかった。気を付けろよ、そう言えば分かりましたと返される。外はどんよりとしていて今にも雨が降りそうであった。傘を忘れるなよ、告げればまた分かりましたと返事は帰ってきたものの、青は傘を持ってはいかなかった。そういう気分なのであろうか。または早く帰ってくるのであろうか。矢張り聞く事は出来ずにただ部屋で待つことしか出来なかった。


雨は直ぐに降ってきた。
ざあざあと強く打ち付ける様に降る雨に先程に出ていった青が気にはなったが然し呼びに行く事は躊躇われた。何故ならば雨に打たれたい気分と云うものを自分も抱いた事があったし、そういう時にどうして欲しいかも分かっていた。後暫くでもすれば帰るかは分からなかった、帰らなければ迎えに行けばいい。そう思ってただ部屋の中で待つ。ざあざあと。空はひたすらに泣き続けた。


男は矢張り帰らなかった。
時計を見れば青が出ていってから既に2時間が過ぎており、ああこれ以上は待てないと思った。扉を開ければ雨は地面を濡らし続け、所々に水溜まりを作っていた。傘をさして行こうか。そうも思ったが然し今更に青に傘を渡しても意味は無いだろう事は直ぐに理解出来た。或いは、何処かで雨宿りしているかもしれない。だが然し出て行った時の青を考えれば矢張りそれだけは考えられなかった。濡れるならそれでいい。或いは自分も雨に降られたい気分であったのか。駆け出して一歩二歩進めば冷たい水滴が背中を顔を、濡らしては視界を遮るのだ。



青は町を出た直ぐ其処に居た。全身をびしょびしょに濡らせてただつったっている。背中だけが視界に入って、名前を呼ぶ。ジェイド。青は、ジェイドはゆっくりと振り向いてゆるく笑った。嗚呼ガイ、濡れますよ。今更ながらの其の言葉に帰ろう、と全く違う返答を返せば意外にも男はそれに帰りましょうかと従った。じゃりじゃり。水を多分に含んだ地面を歩いて然し男は振り向いて苦笑した。寒いですね。それになら早く帰って来い、と叱ってやれば男は嬉しそうに顔を歪ませて笑うだけであった。ありがとうございます。触れた軍服は水を含んで青を更に黒く染め上げていた。嗚呼、馬鹿野郎。


あの時、
群青は笑っていた



笑っていたのか泣いていたのか曖昧なぐらいに顔を歪ませて笑うもんだから、ああ如何すれば正解であったのだろうか。分からなかったが然し、街灯に照らされてもう一度ありがとうございますと笑った男にどうしようも無いぐらいに救われたのは自分なのではないかと思った。そうであってはいけないだろうに。
(弱っているこの男をどうしてあげる事も出来ないのか)
(嗚呼、嗚呼、哀しい)

にやり



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