慈雨でもって溺死



「私は人間じゃあ無いんです」

告げた其の言葉にジェイドは間違いは無いと確信していた、自分は人間じゃあ無かった。目の前青年がじゃあ何なのか問えばジェイドは一寸も考える事無く化け物であると告げた。また化け物という例えにも間違いがあるとは思っても無かった。例えばこの赤い目であるとか、例えば死を理解出来ない精神だとか、例えばが連なって総合的に判断した結果が化け物であるだけで、自分の其の自虐的も云える思考をジェイドはえらく気に入っていた、ああ面白いじゃないか。酒を呑み込めば焼けるように喉が痛むのを他人事のように思いながらジェイドはぼんやりと自分の手を見る、沢山の命を危めていながら綺麗に白を保つ其の肌の白さを気持ち悪いと思った。そうしてこの白が血を映えさせる為だと理解すればそれは一転しいいじゃないかとさえ思う様になった。
危うさに自分が立っている自覚をジェイドは持っていたが然し如何することも自身には出来なかった、また化け物である自身をジェイドは馬鹿にしつつも咎めるつもりは無かったのだ。
「化け物ねぇ」
「ええ、化け物です」
口を開いた青年の言葉に頷いて、然し青年を、ガイを見ることの出来ない自分は恐怖やら後ろめたさ等が体内を渦巻いているのだろうことを理解する、理解するだけで矢張り目を合わそうとは思わなかった。

如何すれば人間に慣れるのか悩んだ時もあったのだ。試しに死に行く人を見て可哀相にと脳内で呟けば然し違和感が自分を襲った、自分には一般の様にそう思う思考さえ無いのかと理解して今度は怖いと思おうとしたが矢張りそれにも違和感が生じた。ならばどうすれば良かったのか。答えは誰にも問うた事は無かったが無駄に良い頭は周りがどう返すのかは分かっていたから聞く事さえが面倒であった、またわざわざ自分が化け物だと公言して回る事の馬鹿らしさを持つ勇気さえ無かったのだ。

「化け物でいいじゃないか」
ぽつりと呟かれた其の言葉にジェイドは顔を上げる。青年はもう一度同じ事を繰り返して後、誰もジェイドに人間に成れなんて言わないだろうと問うてきた。それに頷き返せばそういうことさとガイは酒を口に含む。ジェイドの思考は分からないが、然し自分も復讐に生きて自分が人間か危うい思考を持った事があると確かに笑ったのをジェイドは可笑しく思う反面彼の危うさを納得し、またそれを嬉しいとさえ思った。
「それじゃあ化け物同士のカップルですか」
それに気持ち悪いと返しながらも笑ったガイが愛しいと思った。それだけで化け物の自分が焼けていくのをジェイドは矢張り他人事の様に思ったが、目を瞑る。ランプの光でぼんやりと明るい黒が広がってそれが酷く気持ち良かった。嗚呼、外は雨らしい。



慈雨でもって溺死

化け物はそれでも青年を愛しいと思った
(それは明らかに人間の感情であった)

酸素




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