白河夜船は真昼に旅立つ



「あー脇腹が痛いですねぇ」

静寂を破って少し大きめの声で囁かれた言葉に顔を上げる。脇腹がどうかしたのか。問えばジェイドは色々ありましてね、と視線をこちらに向ける事もなく本を読み続ける。あー痛いですねぇ。わざとらしいそれに一瞬嘘だろうとも疑いそうになったがまあ何かあってはいけないし本当に痛いのだろう、見せてみろと言えばジェイドは軍服の前を開けインナーをたくし上げて白い脇腹を晒してみせたがしかしそこには特には痣も傷も無く綺麗な儘であった。何処が痛いんだと聞けばここなんですと指差されたそこは矢張り何もなく大丈夫そうだけどなあ、とその肌を撫でてみる、痛いかい、それぐらいならまあ大丈夫です、そう返されてはて、では何なのか分からなくて取り敢えず冷やすのも良くないとインナーを下ろし服の釦を閉じてやる。
「何か心当たりとか無いのか」
「有りますよ」
「何だよ」
全ての釦を留め終わって顔を上げる。はっきりと告げられた言葉になんだ原因があるんじゃないかと密かに思ったが突っ込む事はしない。原因が分かっているなら事は簡単である。言っちゃっていいんですかねー、とにやにや笑うジェイドに早く言えよと言えばいいんですかと念を押された、良いから言えって。其の言葉にせっかちですねぇと笑われた後まあ言いますよと脇腹をとんとんと叩く。
「寝相です」
「寝違えたのか」
「嫌ですねー、貴方の、寝相です」
「は、」
「貴方に、蹴られたんです」
分かります?と問われて考える。あ、もしかして寝ている間に蹴ってしまったのだろうか、うわ。理解してしまえば恥ずかしくて直ぐ様悪かったと言えば気にしてませんよとジェイドはこちらに伸ばしてきた腕を腰に絡めた。
「私の脇腹を蹴った罪は重いですよー?」
嬌笑しながら甘えてくるジェイドになんだこのおっさんは、苦笑しか零れなかったがまあ悪かったとはちゃんと思っているので抱き締め返す。早く痛みがひきますように。まあでも嬉しそうにしているからそんなに気にすることも無いかもしれない。



白河夜船は真昼に旅立つ

ルーシー、ペレストロイカ



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