貫いて真紅、愛はもう死んだ
!)遊廓ネタ



金の髪には椿の赤がよく似合うと思う。部屋の隅に生けられていたそれを折って目の前の男の髪にそっと刺した。ああ、似合いますよ。男はうっすらと目を細めて笑った。花の名を持つ彼はそれはそれは綺麗にまるで彼自身が芸術だと言わんばかりには美しい笑みを浮かべた。ありがとうございます。小さく囁かれたお礼にジェイドは一笑することで返した。
小さな蝋でしか灯りを保たない薄暗い部屋の中広くはない、決して狭い訳でもない部屋の中、男とジェイドは二人で酒を交わしていた。男は身を売ることを商売としていてジェイドはそれを買う客であった。そういう関係が続いて常連となった今、やはりその関係は壊れる事無く、彼は他の男にも身を売る。止めることなど自分に出来る筈もない。天人菊と名乗る彼の名を聞くことさえもまた無理な話であったが、欲はあった。何れは聞いてみたいと思った。
「もう一杯如何です?」
酒の入った容器をくるりと回す男に杯を差し出す。何時も通りの口調でいいですよ。要望を告げればとくとくと注がれた酒の後男―天人菊は厭そうに顔を歪めた。
「よく飽きないな」
いい加減こんな遊び止めたらどうだい。彼の小言にいいじゃないですかと笑い返す。飽きる飽きない以前の問題だと自覚している自分にとってみればこれは単純に遊びでは無かった。またそれが彼に通じるとは思ってもいなかった。困らせるだけだとも承知していた。
此処でしか飲めない彼の注ぐ酒は酷く美味しかった、或いはそういう錯覚に陥った。もっと飲んでしまいたいぐらいには自身はその酒に溺れている自覚さえもがあった。
「今日は橙ですか」
着物の袖を持ち上げて上品なそれに目を細める。橙色の生地に黒い蝶々の描かれたそれは彼にとても良く似合っていた。俯いた彼の金色の睫毛に蒼い瞳がまたそれを善く印象付けた。決して厭らしくはないその色合いに不思議と欲を抱いた。覗いた項をすっと撫でればぴくりと震えた後、天人菊は静かに口を開いた。抱くのかと。
「餓えているんですよ」
可笑しそうに何を、と動こうとした口を塞いでしまえば、後は乾いた咽喉を潤わす事しか頭には無かった。

貫いて真紅、愛はもう死んだ
愛に酷似したその行為でしか彼を縛れない自身の愚かさに笑いが零れた。ああ酷く咽喉が乾いた。

酸素




あきゅろす。
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