結局嫌いにはなれない
一週間前だ。
何がと問われれば目の前の男と愛人関係を終えた日のが一週間前だった。
それから何事も無かったかの様に又毎日を過ごして出会って、一週間。
一週間だ。
今隣で酒を片手にこちらを伺う男が何を喋ったか、ああ聞かなかった、自分は聞かなかった事にしてしまいたい。
「やり直しませんか」
何を。
苦笑で誤魔化す。
グラスを口に運ぶ。苦味を帯びたそれを口に含もうとしてジェイド片手に止められる。
「分かるでしょう、やり直しませんか」
「旦那、酔ってるんじゃないのか」
早く屋敷にでも帰ったらどうだい。
ジェイドが酔っていないことは分かっていたがしかし冗談を聞く余裕等自身には無かった。
視線をずらして今度こそ酒を呑んだ。
待ち望んだ筈の苦味が舌の上に広がったが現実から逃げられる訳でもない。
ガイ。
名前を呼ばれて返事をする。この男に名前を呼ばれるのが好きであった。
しかし、今は其処に甘味を覚える事は出来そうに無かった、のに。
(何て声で人の名前を呼ぶんだ)
まるで愛を囁く時に酷似したそれに酷く気持ち悪さを覚えた。
男の甘えた時に近いようなそれが腹立たしくもあった。
「最初に別れようって言ったのはあんただっただろう?忘れたとは言わせないぜ」
「勿論忘れてませんよ、関係を断ちたかったんです、後悔だってしてませんしね」
赤い液体の入ったグラスを円を描く様にして回すジェイドを横目で見る。
なら何故やり直したいんだ。
ぽつりと小さい声で問い掛ければジェイドはそうですねと笑った。
「やり直すとはまた違うのですが」
「が?」
「ガイが好きです」
思わず喫驚した。
ジェイドの口から其の言葉を聞いたのは初めてであった。
愛人じゃなくて恋人として付き合いたい、と。
ああ、この男は馬鹿じゃないのか。
「旦那、実は馬鹿だろう」
「その馬鹿に惚れてたのは何処の間抜けですかね」
ばれてたのか、畜生。
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