所詮、酔っぱらいの戯れ言




「好きだとでも言って欲しいんですか」

五本目の酒瓶がごとりとその場で倒れた。

今この男はなんと言っただろうか。酒で潰れそうなこの頭は何処かの電波でも拾ったのかもしれない。極めて冷静に質問に質問で返す。

「誰が、なんだって」
「だから、貴方は私に好きだと言って貰いたいのではないかと」

電波決定。これが電波じゃなければ何を電波という。
わけのわからないジェイドの答えに開いた口を閉じることなく溜め息を吐き出した。

「溜め息なんてして、幸せ逃げますよ」
「結構だよ、それで」

生憎そんな迷信信じてない。
酒で酔っているのだ、彼も自分も。ガイは酒によってふわつく頭をフル回転してそういう答えに行き着いた。そうに違いない。あまりにもふざけたその言葉に真っ正面から付き合う気力はなかった。
旦那酔ってるんだろ、酔ってないですよ。にこりと交わされたその言葉はあまりにも嘘臭くって信用ならなかった。酔っぱらいの言い訳は酔ってない、と、大概こうである。

「とはいえ、私は貴方に好きだなんて言いませんよ」
「なんでだい」
「だって私は貴方が好きなわけじゃりませんから、勿論愛してなんかもいません」

その言葉に痛む胸などなかった。
ああやっぱりな、浮つく思考は納得するしか出来なかった。というかそれでいい。別に今更、それがなんだ。ダメージにもなりはしなかった。

もう寝たらどうだい。いい加減寝なければ明日の戦闘にも響くだろう。
ガイがジェイドの肩を揺らせばガイがたくさん居ますー、と楽しげにジェイドは笑う。駄目だ、重傷だ。
酔い潰れる前の35歳の軍人にまたも溜め息を吐き出した。



ジェイドの腕を肩にかけて立ち上がる。よいしょ、と声を上げるのは少々爺臭かったかもしれないと苦笑した。
さすがにベッドまで連れて歩くのは骨が折れる。だがしかしこのままにしとくわけにもいかないだろう。
仕方なしに近くのソファーまで連れて行けば案外抵抗もなくその身体はソファーに沈む。
眠たかったのだろう、赤い瞳が虚ろにこちらを見やった。ふわりと微笑むジェイドに少しだけ緊張したが、気付かない振りをした。

「ほら、寝ちまえ」
「ガイー」

手を広げておいでおいでをするジェイドに頭を抱える。馬鹿じゃないのかこの人は。
思わずはあ、と聞き返したガイにジェイドは笑った。

「こちらに来なさいと言ってるんですよ」
「それはわかるが」

なんで。そんな質問をしてまともな答えが返ってくるとも思えない。
楽しそうだなこの人は。他人事みたいな自分の思考に一瞬考えたが、自分も相当酔っているのを思い出して止める。酔っているのだ、これは言い訳だった。
誘われるがままに近寄れば細い腕が首に回される。目の前で綺麗な赤が三日月のように細められた。

「ガーイ」

好きです、と笑いながら告げられる。その笑みのなんと優しいことか。死霊使いには相応しくないその笑みに一瞬息をするのを忘れた。
はいはい、酔ってるんだろ。絞りだした言葉にジェイドはまたも酔ってないです、ところころと笑った。

「ガイ、好きですよ」

ああ違った、ジェイドがこちらを見やる。

「愛してます」

そう言って最後、満足そうにジェイドは目を閉じた。数秒後には規則正しい寝息が聞こえ始める。

好きだなんて言わないんじゃなかったのか。愛してるなんてそれこそ一生。
軽い混乱が頭の中をいっぱいにしていく。

これなら一生言われない方がよかった。余りにも息苦しい。まさかなんて期待をしてしまうほど馬鹿ではないが、でも余りにも狡い。狡すぎる。

ああ、なんて意地の悪い。



所詮、酔っぱらいの戯れ言

明日には知らぬふりでもするんだろう
(俺のことなんて好きじゃないくせに)



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