しかし酸素では足らず、





例えるなら陸に上げられた金魚のように口を開閉して自分は何を求めるというのだろうか。ぼやけゆく視界の中で一体何を思うというのだろうか馬鹿馬鹿しい。巧くいかないことは何もこれだけじゃなかったというのに子供の様に何も出来ないで怒っている自分は酷く可笑しいんじゃないかとぼんやりと考える。嗚呼格好悪い、あまりにも惨めじゃないか。そもそも何故自分は怒っている。
わけのわからない感情に支配されながら、それでもペンを走らせる手だけは止めず視線も紙から放す事なく作業する自分の少しだけ残った余裕に救われた(それは本当に少しで今にもペンを折ってしまいたいぐらいには追い詰められていたが)



彼は今幼なじみの皇帝の部屋にいるのだろう。
約束の時間は既に過ぎたというのに一向にやってくる気配のない彼は、きっと皇帝の駄々を苦笑しながら聞いているのだろうと、優しい彼のことだから断ること等出来ず、それこそ良妻の様に幼なじみに尽くしていることが想像出来てしまって苦笑いひとつ舌打ちひとつ。いつだって彼は誰にでも優しい、それこそ私にも。
くるりと廻る秒針に嗚呼今か今かと待つ自分はさながら乙女のようで気持ち悪い等と思ったが一秒一秒に消されていく。彼がドアをノックして待ったかと入ってくるのを自分は酷く望み過ぎていた。あまりにも重傷だ。気のせいか頭も痛い。嗚呼今長い針がまたひとつ動いたからこれで約束の時間から12回目の確認だ。
迎えに行こうかそれとも待つべきか、いや彼は来ないのか(彼は決して約束を破らないけれど)どうしたらいいのかどうするべきなのか苛つきに机をどん、と叩く。何時もの冷静さ等今の自分には欠片もない。苦しいぐらいに感情が渦巻くだけだった。


嗚呼、本当に遅い。


心配なんてしていない過信だってしていない、ならば一体何だというのだろうかこれは。爪を噛めば少しだけ折れたそれが気になったから噛みちぎる、と妙な形になったぎざぎざの爪先が目に入った。失敗したなと指で爪を撫でる。やはり爪なんて噛むもんじゃない。
ちらりと時計を確認すればまだ前の確認から30秒しかたっていなかった。可笑しいぐらいに彼を望む自分に溜め息をひとつ。何時から自分は時計を確認するのが癖になったというのかそれこそこんなたった短時間で。30秒も我慢出来ないなんてあまりにも情けないじゃないか。

暫くして長針が15回動いたその時こちらに向かう聞き慣れた足音が聞こえたもんだから思わず気分が上昇する。それでも顔には出さなかったが。まるで水槽に戻されたかのように余裕を取り戻した自分が自分じゃないような、それこそまるで掌で転がされているようなそんな妄想が頭を責める。それでも間違いではないのだろう。

こんこん、とリズムよく、けれども控えめなノックの音にやっと自分は呼吸が出来たような錯覚がした。
(結局感情の意味も原因もわからなかったがきっと酸欠に似て異なるのだ、なんて)



呼吸は出来るけれど、しかし酸素では足らず、
(きっと卑しいぐらいに求めている)

世界が飛び散る一秒前
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あきゅろす。
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