初めてのキスは甘くもなんともなくて、



「器用に作りますね」
割り当てられた宿屋の一室で音機関を弄っていたら、いつの間に後ろにいたのか、ジェイドがそう褒めてくれたものだから少しだけ得意げに、好きだから、なんて返す。
貴方の其れは偏執狂でしょう、と笑われて、けれども手元のそれを取り上げられる。光に翳す様にして細部まで細かくチェックされる。
「私にはよくわかりませんね」
「そんなこと言って、旦那少しは知ってるんだろ」
「はい、天才ですから」
軽く笑いながら言われ言葉に、よくいうよ、なんて言ってしまえば、本当のことですし、と手の上に先ほど取り上げられた音機関を返された。ありがとうございます、ああどういたしまして。
そういってドライバーを片手に持って、手前の螺子をきつく締める。手慣れたその手つきにジェイドは流石、と馬鹿にしたのかなんなのかわからないが褒めたので、いい性格してる、と愚痴を零した。
「で、旦那は何か用なのかい」
態々別室であるガイの部屋にまで来たんだ、なんか用があるんだろ、と問えば、用というほどのものじゃありませんがまあ一応、とはっきりしない返事を返したもんだから、少しだけ気になって、しかし、手元の動きは止めない。今がいいところなんだ、手を抜くわけにはいかないし、此処が重要な部分なのだ。
隣に置いていた工具を手に取り、ドライバーと入れ替える。
「で、なんなんだい」
問えばいいんですかね、と笑う声が聞こえたと同時に顎を掴まれて持ち上げられる。
ジェイド、今いいところなんだ。邪魔しないでくれ。
そう言おうとして、けれどその言葉は呑み込まざるを得なくなる。
「じぇ、」
「唇、柔らかいですね」
それでは用事もすませましたしああそうそういい加減私を構ってくださいねー、ぱたんと閉じられた扉の向こうにマシンガントークをぶっぱなした男は消えていく。
がしゃん、手に持っていた音機関が落ちて悲惨な音を上げたがそんなことよりも何よりも。
「旦那ぁ!!」
逃げた男を追う方が先決だろう!


初めてのキスは甘くもなんともなくて、ただ何かを奪われただけで
(ファーストキスがおっさんなんて認めない!)

31D



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