不順な動悸を甘く焼けばいいさ



自分はガイと恋仲である、とジェイドは思っているしそれをガイは否定しない。つまりはそういうことだった。
成人になったばっかりの自身より14も下のいい人を捕まえて何をいってんのかと思うかもしれないが実際その通りなのだから否定のしようもないのである。
序でに言えばそれはとても健全な付き合いだった。35と21の子供だとは言えない年齢の二人(簡単にいえば大人である)がまるで子供の様にキスしては照れて等とその繰り返しでとても大人の恋愛だとは思えないぐらいに幼稚な恋愛をしていた。
それはやはり背徳的なこの男同士でその先に進むというのが恐ろしいとかそういう感情を持ち合わせてか、等と考えても答えなど出なかった。
それよりも何よりもガイは極端に恋愛経験を持ち合わせていない。それも女性恐怖症等と男にとってはなんとも損な体質の所為でもあるのだが(それはジェイドにとっては寧ろ好都合でもあった)
恐らくはそれが一番の理由であろう。
また、ガイは少々恋愛というものに理想を抱いていた。とはいうもののまったくもって子供というわけでなく。
一度、そういう気持ちを含めて(所謂下心なのだが)ディープキスをしかけてみたら、真っ赤になりながら、でもその意味を理解したのだろう、困ったようにガイがやんわりと拒絶したことがある。
そこでジェイドも気づいたのだ。
ガイにとってはこういう事は初めてなのだ。(それはこういうことで無しにしても、恋愛事である以上は全てが初めてであるのだろう)それをジェイドは無理やりにはしたくなかった。
貴方がいいというまで待ちますよ、と告げればガイが済まなそうに謝ったのも随分前である。随分と前というのは付き合い始めて1週間目の夜であり、今からいう4週間前のことであった。
幼馴染である皇帝がこのことをしれば、随分とお前らしくないなと笑われるであろうことはジェイドも自覚していた。が、何よりもジェイドはガイのことを考えた。
いい歳をしてベタ惚れであった。笑い事でもなく、本気で。
短い、触れるだけのキスでも満たされるということを初めて知ったぐらいには本当に幸せでもあった。何度も言うが幼馴染やら妹が知れば驚かれるか明らかに爆笑の類の感情でもあろう。それぐらいに自分には疎いであろう感情であったのに。
つまりは、物足りなさも感じるが、それでも幸せだったのだ。

ところが今朝、ジェイドの部屋にガイが丁寧にノックをして入って来た後、告げた言葉は「夜、ジェイドの部屋にいくから」と短くもあるが夜のお誘いの言葉だった。
一瞬疑ったが、けれども照れながら告げられたその様子を見る限りにはそれは間違いないのだろう。
ガイがいいというのなら自身もそれでいいのだ。多分ガイの気持ちの整理が出来たのであろう。それはそれでジェイドにとってはものすごく嬉しいことだった。

ガイが部屋を出るために扉を開けたその時、遠くから早く降りてこいよ、とルークの声が聞こえたものだから、じゃあいこうか、とガイと一緒にルーク達の向かったであろう食堂へと足を運んだ。


「大佐、やけにご機嫌ですねぇ」
「おや、アニス。わかりますか」
にっこりと笑ってやれば、何があったんですか、とアニスは眼を輝かせる。
持っていたパンをぎゅ、と握りしめる彼女に、隣に座っていたティアが注意する。またナタリアもはしたないですわよ、とアニスに声をかけたものだから、アニスは言葉通りに従ってそのパンを一旦皿の上へと戻した。
「で、何があったんですかぁ」
「私も気になりますわ」
ナタリアとアニスに見つめられてジェイドは、どうしましょうかね、とスプーンでポタージュを救いあげた。
「なぁ、その、俺も気になるんだけど」
そう言ってこちらを窺うルークと気にしているのだろうティアの視線にジェイドはおや、と首を傾げる。普段鈍いのを発揮する2人までがこちらを気にやるものだから、そんなに自分は分かりやすかっただろうか、と目の前に座る少女に視線を戻す。
「アーニス」
「なんですかぁ」
「そんなにわかりやすいですかね」
「はい、大佐にっこにこですよぉ」
気持ち悪い位に。と付け加えた彼女の名前をねっとり呼べば、ひぃ、と悲鳴をあげて焦ったように冗談ですよぉ、とアニスはティアの腕を掴んだ。ぼそぼそ、聞こえないようにいっているのだろう、怖いという単語はジェイドには丸聞こえだったのだが(地獄耳とはまさにこのことかもしれない)
ちらり、と自身の隣を伺い見れば、平然を心がけているのだろう、なんとでもないというように千切ったパンを口に運んでいるけれども
(顔が赤いのには気づいてないんでしょうね)
それが可笑しくてくすくす、と小さく笑えば、なんだよ、とこちらを窺うものだから、いえなんでもないんです、とジェイドはポタージュを啜った。可愛いではないか。
「ああ、もうこんな時間だ!」
時計を見やってルークが勢いよく立ちあがる。それをティアが落ち着きなさい、と制止すれば、悪かったとルークは謝りつつ、じゃあ今日はこの近くで少し力をつけよう、と昨日のうちに決めていた作戦を確認とばかりに口にした。
それにみんなが頷けば、ルークはへへ、と嬉しそうに笑った。彼は本当リーダーらしくなったものである。
隣では話がすり替えられてほっとしたのだろう、ガイの安堵の溜息が聞こえた(それに思わず笑ってしまい、ガイに睨まれてしまったのだが)


嬉しいと一日など早く過ぎてしまうものである。(ちなみににやけていたのだろう、ルークとアニスが気持ち悪いと言ってきたので存分に弄り倒してやった)

宿に戻ってシャワーを浴びて、気づけば夜遅くを指す部屋にある時計を見上げてもうすぐ来ますかね、と心を躍らせていた。
こんこん、ノックの音にどうぞ、返事を返せばやはりそこにいたのはガイであった。いいかな、と首を傾げるガイにどうぞ、と隣の、ベッドの上を叩いてやればガイは誘われるがままにそこに座った。
いいんですか、とジェイドが聞けば、いいから来たんだろ、と照れ笑いで返されて確認は終わる。
後は合図のようにキスをして、誘われるがままにシーツの海に埋もれる、
はずだった。



「何してるんですか」
「何って、するんだろ」
「そうですけど、この状況は可笑しくないですか」
その質問にガイはきょとんとした顔でジェイドを見つめ返すだけだった。
「ガイは何がしたいんですか」
「だから旦那と、その、するんだろ?」
間違ってはいない、いないのだけれども。
ジェイドのいう可笑しな状況というのは自身が押し倒されているということだった。
ジェイドは自身がリードするつもりでいた。つまりは自身が攻めるつもりでいたのに。今のこの状況からみるに、恐らくはガイもジェイドと同じであったのだろう。
ちょっと待ってください。焦ったつもりはないのだけれども、少しだけ余裕のない声が漏れた。
「ガイ、私は貴方を抱くつもりでいたんですが」
「は!?」
嘘だろ、ありえない、と騒ぐガイの様子を見るからには自分が受けるという想像をしていなかったことにジェイドも気づいた。(それはジェイドも一緒だったのだが)
その事実に少し考えてしかし、もごもごとだってこういうのは、と恥ずかしそうに視線を逸らすガイに、なんですか、と尋ねれば、ちらりとこちらを伺った後にガイはまた視線を逸らした。
「告白、は俺がしただろ」
「ええそうですね、言わせました」
付き合う前、恐らくガイは自分のことが好きであろう、という確信は持てていた。だからこそジェイドはガイからその気持ちを聞く為にわざとガイの方から告白させるように、罠を仕掛けた。
それに見事に嵌ったガイはジェイドに何も知らずに告白して、それにジェイドも満足であった(因みに後にガイはこの告白がジェイドの策略だと知ったのだが)のは最初にも言ったとおり、前の事で。
でもそれがなんですか、とジェイドが尋ねれば、その、と云い難そうにした後に口を開いた。
「告白した方が、相手を抱くんだろう」
「はい?」
「はい、ってなんだよ。その陛下に聞いたんだが」
あの馬鹿皇帝は何を要らぬ事を言ってくれたのだろうか。(次にあったらあの能天気な頭をぶっ叩いて仕事机に縛りつけてやろうか)
極端に恋愛経験も少なければ、ガイは知識さえもが乏しかった。(それなりには知っているのだが、それ以外は多分復讐に生きてきた故に恋愛など必要ないと割り切ったものだったからであろう)
だからこそ普段であるなら、冗談だとわかるであろう言葉も簡単に信じてしまっていた。
目の前で、旦那さえよければ、と一人先走っているガイの額をぺしり、と軽く叩いた。その意味を理解し損ねたのだろう、なんだい、と問う顔は幼い。
「私がガイを抱きます、拒否権はないです」
「は!?」
なんで、と驚いているガイの腰を掴んで横に倒す。ぼふんと埋もれるガイの体を今度はジェイドが組み敷いた。
其の動作についていけなかったのだろう、ガイが不安と驚きの混ざった視線でジェイドを見上げた。それに密かに欲情した。
「陛下の其れは嘘ですよ」
「う、そ」
「そうです」
自分がまんまと騙されたのが恥ずかしかったのだろう、かぁ、と朱色に染まる頬にキスを落とす。其れにくすぐったいと身を捩るガイの腰を捕まえて、今度は唇へとキスを落とした。

「しても、いいんですよね」
「それは、」
「其の為にここに来たんですよね」
笑い掛ければ、其れは旦那を抱くつもりだったからで、と必死に言い訳を零すガイにそれ以上は喋らせまいとキスをする。深く、貪り尽くす様なそれにガイはすぐに息を上げた。
あんたなぁ、と恨めしく睨むガイに、もう我慢なんて出来ませんし、待つつもりもありません、と服のボタンを外しに掛った。
「、旦那」
「なんですか」
恥ずかしいのだろう。ぷい、と顔を逸らすガイの首筋にキスを落とせば、びくり、と体が跳ねた。恐る恐ると云った風にこちらをみやるガイの頭を撫でてやる。
「ガイ、愛してますよ」
だから抱きたいんです。
そう告げれば肯定の返事なのであろう、ゆっくりと首の後ろに腕を回された。

俺だって我慢できない、と蚊の鳴くような声で告げられて、優しくしますよ、と何度目かわからないキスをした。



不順な動悸を甘く焼けばいいさ
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何が書きたかったんだろう。



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