そもそもの発端は



「宿屋の部屋分けどうしよっか」
ティア達が3人部屋使うからって2人部屋と1人部屋を貸してくれたんだけど。
ルークが後ろのジェイドとガイに聞けば、ジェイドは考える素振りも見せずルークに1人部屋を勧めた。(大概の宿は2人部屋と1人部屋でいつもこんな組み分けなのはなのだが)
え、いいの、とルークがちらりとガイを伺い見れば、ガイはその発言にたまには旦那が1人部屋使えばいいじゃないか、とすかさず突っ込む。
ルークは俺と同じ部屋でいいよな、と聞くガイに俺はそれでいいけど、と言おうとしてジェイドの視線に耐えれず、やっぱ俺一人でいいよ、と小さく返した。
ルーク!?それに過剰に反応したガイを無視をしてジェイドはそうですかーいやーありがたいですね、さ、ガイ行きますよ、等と張り切ってその場を去ったものだから、ルークは心の中でガイに謝るしか出来なかった。
(無力な俺でほんとごめんガイ!)

「旦那!」
「なんです」
宛てられた部屋について早々、怒鳴りあげたガイの言葉にけろりと返事をジェイドは返した。
私が何かしましたか、といわんばかりに笑みを浮かべていて、ガイはそれが余計に腹立たしかった。
「ルークが可哀想だろう!」
俺達がいっつも同じ二人部屋でばっか寝てるからあいつ大概一人ぼっちじゃないか、と文句をいうガイにジェイドはやれやれと態とらしく首を振る。
(その仕草は余計ガイを腹立たせるだけだったのだが)
「何も一人じゃ眠れないって程ルークだって子供じゃありません」
「けど、」
「それに、私はちゃんとルークの様子だってみてます」
「それは、知ってる。けどな」
「それに私一人じゃ眠れません」
「嘘だろう!旦那、嘘だろう!!」
何平然と気持ち悪い嘘言ってるんだ旦那!ガイの叫びは恐らく正しい。正しいけれどもそれが通じるジェイドでは無かった。
失礼ですね、となんともないようにいうジェイドにガイは体力の半分を持っていかれたような気がした。
「大体ルークがあなたに泣き付きでもしたんですか、一人だと怖いって」
「あいつはひとりで意地はるからそんなことするわけないだろ、だからこっちがわかってやらないと」
「ガイ」
鋭い声で名前を呼ばれてびくりとする。怒っている時のような声だったので、恐る恐るジェイドの機嫌を伺い見れば、それでも怒っているようではなかった。
じゃあ一体何だというのだろうか。
「そこまでわかってるなら、わかりますよね」
「?、何を」
真面目にわからなかった。ガイはジェイドの言葉の真意が読めないでいた。だが確実にジェイドの機嫌は下がっていた。
そのまま暫く沈黙が続き、しかしそれはジェイドによって破られた。もういいです、そういってドアノブに手をかけるジェイドにわけがわからなくてガイはジェイドの名前を呼ぶ。
それににこりと微笑んでジェイドはドアを開けた。
「ルークに代わってもらいますよ」
「は?」
「それじゃあおやすみなさい」
ぱたんと閉じられた扉に意味が分からないとガイは呟いた。その3分後、何あれちょうこえぇんだけど、と怯えたルークが代わりに入ってきたものだから余計にわけがわからなかった。



それから4週間たった、それはそれは平和だった。平和すぎた。それは良い意味のようで悪い意味で、だったが。
あれからジェイドはガイと同室にならずに1人部屋にいくようになった。
ルークが何に気を利かせたのか、「俺1人部屋がいいんだけど」等といってもにっこりとジェイドはそれを交わした。
やらなくちゃいけないことがあるので、一人がいいので、気分が悪いので。
理由は様々であったが、それが避けられているのだと気付かないほどガイも馬鹿ではなかった。
(ルークでさえ、感づいているのだろう、何かあったのか、と聞かれたもんだから、自分にもわからないと返しといた)
そしてそれは例を漏れず、今日もであった。
「旦那」
呼べば普段通りに返事される。そう普段通りに。だからこそガイには余計にわけがわからなかった。
「用がないなら失礼しますよ」
それでは、と部屋に入っていくジェイドの背中を見送って、ガイはそこにつったっているしか出来なかった。



「なぁ、なんでジェイド怒ってるんだよ」
「やっぱり怒ってるのか、けど俺には怒ってる素振りなんて見せなかったんだが」
ルークの問いかけにガイが問いかけ返せば、気づいてねぇのかよ、とルークが少し項垂れた。
「あのな、ガイはしらねーかもだけど、4週間前にいきなりジェイドがきてからむちゃくちゃジェイド俺に絡んでくるんだけど」
あれマジでこえぇの、とルークは身震いした。
そのルークを見る限りそれは嘘ではないのだろう(そもそもルークは嘘は苦手であるので嘘かどうかの判断など簡単なのだが)
「俺、なんかジェイドに悪いことしたかよ」
「ルーク、落ち着けって。多分、旦那が可笑しいのは俺の所為だと思う」
「なんか心当たりでもあるのか?」
「あるっていうか、なんていうか」
「はっきりしろってーの、俺マジでいつか殺されそうなんだけど!」
冗談ではなく本気で。そう告げるルークの眼は本気だった。それにガイが同情したのは言うまでもない。
実はな、と事の経緯を話し始めた。
(因みにルークはジェイドとガイが恋仲であることは知っていた)(ルークだけなのが救いであったが)(とはいいつつも実はアニス辺りは感づいているのだけれども)


「はぁ!?ガイばっかじゃねーの」
「おいおい、お前馬鹿ってなんだ馬鹿って」
「なんで俺の話出すんだよ、ほんっとありえねぇ!」
つーか俺1人で全然大丈夫だし、馬鹿ガイ!
ぶす、と怒るルークに苦笑するしか出来なかった。(まさかルークに馬鹿っていわれるとは思わなかった)
「つーか、俺だって二人きりの時に自分の好きなやつから他の男の話なんて聞きたくねぇし」
「そうか?」
「そうだっつーの!ガイだって嫌だろ、ジェイドが俺の話するの!」
「いや、寧ろそれはそれで気にかけてくれているってわかって嬉しいんだが」
「こっんの、天然たらし!」
「こ、こらルーク!それは関係ないだろう!」
ベッドから立ち上がって吠えるルークにガイも応戦する。(恐らくアニス辺りがいたら親ばかだと突っ込まれそうな会話であったが)
ルークの言ってることもわからないではなかったが、ルークの言い分だとまるでジェイドがルークに嫉妬している、と言っているようなものであった。
ガイはそれは無いという自信があった。ジェイドだってルークが大切なのだ、だからこそ、そのルークに嫉妬なんてそんなまさか。
「じゃあなんだよ」
ぶすり、と不貞腐れるルークにそれがわかれば苦労なんてしないよ、とガイはため息を吐いた。一体なんだというのであろうか。
ベッドサイドに置いてあった備え付けの水差しを手にとってコップにそれを注ぐ。
乾いた喉にそれを流し込めばじんわりとした冷たさが内側から広がった。
「っていうかさ、」
「何だ、ルーク」

「まさかジェイドも寂しいってガイに気付いて欲しくて意地はってるとか」
まさかなー、と笑い飛ばすルークに持っていたコップを落としてしまった。



「で、なんですかガイ」
「ほんっとごめん!」
ぱん、と目の前で手を合わせる、この通りだ、すまん、と頭を低くするガイにジェイドはため息を吐いた。
ルークの言ってることはほぼ当たりであった。
4週間前のジェイドの「そこまでわかってるなら、わかりますよね」はガイの「あいつはひとりで意地はるからそんなことするわけないだろ、だからこっちがわかってやらないと」に繋がっていたらしく、ルークに言われて漸くわかった。詳しく言えば「こっちがわかってやらないと」の部分になのだが。
簡潔に言ってしまえば、ジェイドはガイとただ二人っきりになりたかったのだ。他でもない、恋人であるガイと。
(別段ルークに対する嫌がらせというわけでもない)(それはガイも解っていたのだが)
それなのに、ルークルーク煩いガイに、実は傷ついていた、と(と文字にすればなんとも信じがたいのだが)
しかもそれに気づかず、気づけば、
「4週間でしたか」
「う、」
その通りだ4週間。返す言葉もなくて声を詰まらせるとやれやれとジェイドは読みかけの本をテーブルの上へと置いた。
ガイ、優しくも、けれども厳しくもない感情の籠ってない声で呼ばれてガイは顔を上げる。
こちらに来なさい、と誘われてガイは言われるがままにジェイドの方へと歩んだ。
「このまま一生わかってくれないのかと思いました」
「悪かったって」
「ルークのことはあんだけ理解してて、私のことは全然ですか」
「だから悪かったって!」
「今回はルークに感謝ですね」
そういってジェイドはガイの手を握った。ガイ。先ほどよりは優しさを含む声でジェイドはガイの名前を呼んだ。
なんだ、返事を返せばゆっくりと微笑んだ。
「仲直りのキスでもしましょうか」
「ば、・・・わかった」
ここで意地はって更にジェイドの機嫌を降下させることはしたくなかった。
恥ずかしくてたまらないが、それで許してくれるのなら、と眼を瞑ってくれ、と言えば、譲歩してか言うとおりにしてくれたものだから、触れるだけのキスをする。
少し不満だったのか、それでもまあこれで許してあげましょうか、とジェイドはガイの頬へと唇をあてた。
「これからはちゃんと私のことも理解してくださいね」
「善処するよ」
本当ですかね、とジェイドが笑ったので、本当だよ、ともう一度キスを送った。


そもそもの発端はきみがとんでもないわからず屋だったからであって
「ということでガイ、お仕置きです」
「やっぱり、か」

にやり



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