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人として軸がブレてる
バッテリー愛編


練習開始前の朝のベンチ。
爽やかな空気の中。

向かい合って座るのはオレらのバッテリー。






「なあ、花井。

近くで見てなくてもいいの?」



「…なんでまたオレなんだ、栄口?」



「だって、キャプテンじゃん」





頼むから、オレに振らんでくれ…。







阿部は三橋に何やかやと日常生活のチェックを入れている、らしい。

三橋は、自分の為に尽くしてくれていると本気で信じ込んでいるから、阿部に背くことは決してない。





だから、良くない―。







「三橋、今朝の体重は?」


「52.1kg、です」


「朝食は?」


「えと、ご飯2杯、と、卵焼き と、えと…豆腐とトマト、のサラダと、昨日のハンバーグ、と牛乳…」


「就寝時間と起床時間は?」


「11時に寝て、4時起き、で…」


「寝る前に誰かに電話かメールした?」



………は?




「え、し、してない、よ?」



「ふうん。

じゃ、誰かからメールとか電話が入った?」



「う、ううん!」



「ふうん、じゃいいや」



「???」





…阿部、野球に全然関係ないから。

三橋も答えなくていいから!





「手、見せて」



「う、ぇ?」



「だから、手!」





そう言って、阿部は三橋の両手をむりやり掴む。





「……よし、ちゃんと爪切ってんな。

でも、これからはオレが切るよ」



「え?え?!

ど、どどどうして―???」



「万が一切り忘れたり、切って深爪になったりしたら、投球の時に困るだろ。

マメとかも潰したりしないように見ておきたいし。

だから、これからは毎日オレがチェックする。

で、伸びたらオレが切るから」



「う、あ……は、はい」



「それと、カロリーチェックもしたいから、これから昼飯は7組で食え。

または、オレが9組に行く」





あの…、すげー強引なんですけど……。





「ほ、本当に?

良い の?」





え?
なんで三橋喜んでんだよ?!





「ああ、これから毎日な」



「お、オレ、みんなと食べるの 嬉しい」





あ〜、三橋。
そんなこと阿部に夢見ちゃダメだ…。





「そうか、三橋。

オレと飯食うのがそんなに嬉しいか」



「うん!!」





「花井、9組でちゃんと阿部を足止めしとけよ。

すっっげぇ、ウザいから!」





通りすがりの泉になぜかオレが注文される。
というより、ほぼ命令口調なんですけど…。




「あとお前、全体的にもうちょっと筋肉付けたほうがいいよな。

そうだ、これから筋肉のチェックもしようぜ」



「え?筋肉の、チェック…???」



「特に足腰。

毎日触って状態をチェックしていけばよく分かるから。
負担かけ過ぎても逆効果だしな」





えぇ〜〜〜?!

それは明らかにセクハラ!!!





「そ、そうか!

阿部君は、スゴイ!!」





三橋、そこは感心するところじゃないから!

ドン引きが正解だから!!

てか、本気で逃げろ!!!





「―花井、前言撤回。

足止めなんて生温い。

阿部を通報するから田島の正捕手、本気で考えろ」





泉がまた後ろから言う。


だから!

オレに権限無いから!!





「あ、あのさ〜。

そんな毎日見たって急に筋肉付く訳じゃねぇし、定期的に筋力テストとかすれば良いんじゃねぇの?」





おっ、クソレフトこと水谷が珍しく阿部に食い下がった!





「はぁ?

テメェには関係ねぇよ。

オレ達のことに口出すな」



「でもさぁ、夏大も迫ってるんだしさぁ、なんつーか時間をもっと有効活用した方が―」



「…水谷」





あれ、阿部が水谷の言葉に共感している…?





「お前、たまには良いこと言うじゃねぇか」



「たまに、は余計だけど。

ちゃんとオレだって考えてますよ〜」



「確かに夏大までの時間は短いな…。

三橋!」



「うぁ、は はい!」



「夏大終わるまで、オレんちかお前んちで毎日強化合宿だ!」





何が合宿だ〜〜っ?!!





「ちょっ、花井!

阿部にブレーキ付けてよ!」



「栄口、お前なぁオレにばっか不可能な注文すな!」



「オレ、投手じゃなくて良かった!

毎日阿部といたら、うっさいんだもん」



「田島〜、問題はそこじゃないだろ…」





三橋、丁重に断れ!

いや、この際「キモい」の一言を言ってやるくらいの方が―。





「で、でも、それは ちょっと…」





だよなぁ、三橋だってさすがに引くよなぁ。





「なんだよ、嫌なのか?」



「そ じゃなく、って…」



「あ?」



「あ、阿部君に悪い よ」



「三橋………。

馬鹿だな、お前は。

バッテリーは一心同体。

オレがあってのお前だし、お前あってのオレだろ?」





なんて言いながら、人差し指で三橋の額を軽くつつく。



って………。

キモッ!

阿部、キモ過ぎ!!!





「あ、阿部君…」





ちょっ、三橋!

何、目潤ませて感動してんだよ?!

罠だぞ!

それは阿部のとんでもない罠でしかないんだぞ!!

頬まで赤くして、その変態を煽るな〜!!!





「オレ、頑張る よ!」



「ああ、今日からオレ達はどんな時も一緒だぜ」





イヤーーーーーッ!!!

誰か、あのガチホモ変態と底なし天然を止めてくれー!!!





「いっそ、これであのイカれた頭フルスイングしてやるか…」





泉がバットを握り締める。





「待て!

これ以上、この部から犯罪者を出すなー!!!」





そうだ!

この時点ではまだ誰も境界線を越えてねぇ!





「い、泉。

阿部はまだ三橋に何かしたわけじゃねぇし、それで息の根止めんのはちょっと…」



「何かあってからじゃ手遅れだろ」



「三橋だって男なんだしさ、そうそうヤツの思惑通りには―」



「相手は、ア、ノ、阿、部、だぞ!」



「お前の言いたいことは分かりたくなくても120%分かる!!!

けどな、犯罪者にならないで仕留める方法考えよう。

なっ?!」



「何喚いてんだ、お前ら。
うっせぇな」





誰のせいだと思ってんだよ?!!





「い、泉君。

どうかした、の?」



「どうもこうも―」





と、泉は言いかけてグッと飲み込んでしまう。

それもそのはず。

友達との楽しいお泊まりと昼食(と三橋は信じ切っている)を阿部に約束してもらって、三橋の顔は珍しいくらいに輝いている。





「………三橋。」



「う、うん?」


「………いろいろ気をつけてな」





結局、泉はそれしか言えなかった。





「へ?

あ…、お、オレ コケないように、気をつける、よ!

ありがとう、泉 君」





三橋の笑顔にあてられて、泉はもう何も言えない。





そうだよ、三橋はこんなに喜んでんだ。

もっと三橋を信じよう!

コイツだってやる時はやるんだ!

大丈夫、何とかなるさ!





「結局、今回も様子見で終わりなんだね、キャプテン」



「オレも頑張ってみたのに、花井は見てるだけ〜か」



「お前らには言われたくねぇよ!」





西浦ーぜの苦難はまだまだ続く!



071123 up




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