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人として軸がブレてる
携帯電話編

「とりあえず、連絡だけは取れるようにしたいから、携帯の番号とメアドは全員交換な」






花井キャプテン誕生の日、帰りの部室内で花井は言った。

皆、騒ぎながらそれぞれに連絡先を登録していく。


その中で一人だけ携帯を二つ持って、その内の一つを忙しく操作している奴がいた。





「……阿部、携帯二つ持ってんの?」





不思議な光景に、つい質問してしまった西広。





「はぁ?んなわけねぇだろ」



「え?だって…」



「これは三橋の。

オレのはこっち」





阿部の携帯は、既に登録を終えたらしい。





「…えと、なんで阿部がやってんの?」





怖い物見たさにも似た気分で、水谷は恐る恐る突っ込む。






「三橋は操作遅ぇから、着替えてる間にやってやるっつったんだよ」



「へ、へぇ〜……」






それにしても…。



それにしても、ですよ。


なんか、やたらといじってませんか、三橋の携帯………。


しかも、指の動きが信じられないくらい早い!



携帯を渡してしまっている当の本人は彼の不審な行動には全く気付かず、鼻歌さえ歌いながら着替えている。


操作に専念している阿部の後ろから、水谷はこっそり画面を覗いてみた。





「……………」





(ヤバい!
コイツ、絶対ヤバいよ〜!!!)





パニクる水谷を余所に、更なる作業へ。

いつの間にやら阿部の手にはSDが握られ、それは三橋の携帯に差し込まれた。





(SDなんてどうすんだよ……?)





余程集中しているらしく、まだ背後の水谷に気付かない。

水谷は観察を続け、どんどん蒼褪めていく。





(あ・・・阿部〜!それはダメだろ!!!)





「キャプテン、キャプテン!」



「だーかーらー、担ぐなっての!!!」





小声で呼ぶ水谷に、花井は一喝する。





「そんなんじゃねーって!」



「じゃ、何だよ?!」



「阿部!

阿部を見てよ〜!」





ずっと小声で話す水谷に花井はさすがに不安を感じ、阿部を振り返る。





「ん?……あれ、阿部のじゃないよな」



「三橋の携帯なんだけどさ。

連絡先登録してやってるとか言いながら、別作業してるんだよ」



「別って?」



「それがさ…、三橋の携帯の発着履歴見てんの」



「何で?」



「知らないよ〜」





……何をしたいんだ、阿部。





「それくらいならまだ良いんだけどさ」





まだあるのか?





「アドレス帳をSDに移してた。

しかも全件…」



「何で?!」



「だから、知らないよ〜!」





阿部・・・・・・、お前完全にストーカーだよソレ・・・。




諸悪の根源は今、画面を見ながら時折舌打ちしたりニヤけたりしていて、本当に気色悪い。





「あれはマズいでしょ〜。

止めてよ、花井キャプテン!」



「そうは言われても…。

てか、見てたんならお前が止めれば良かったじゃんよ?!!」



「怖くてできるわけないっしょ!」





そう、人道的には止めたいのだが、相手があの阿部だ。

命は惜しい。

しかも、被害者かもしれない三橋は全く阿部に任せ切りだし。





「あれはヒドいよ〜」





今度は栄口が小声でやってきた。





「阿部のヤツ、三橋のメール全件チェックしてるよ」





お前はどこぞの嫉妬深い彼氏か…。





「しかも、いくつかSDにコピってるし…。

花井、止めてよ〜」



「お前までオレにかよ?!!」



「だってキャプテンだろ」





………キャプテンなんて引き受けるんじゃなかった…。





「三橋、終わったぞ」





そうこう言っている内に、阿部は作業を終えたらしく、三橋に携帯を返した。





「あ、ありがとう、阿部、君!」





(((三橋!そんなヤツに礼なんて言っちゃダメだー!!!)))





「どういたしまして」





通常では有り得ない満面の笑顔で応える阿部に、悪事を知ってしまった3人は震え上がる。

三橋は何も感じないようで、嬉しそうに携帯を握っている。





「………と、とりあえず三橋に被害が出なきゃ、しばらくは様子見で良いんじゃね?」





花井の精一杯の結論。


確かに。


花井の意見に賛成して、この話は終わりにしたい二人。





「…そ、そだよね。

三橋は気にしていないんだし」





本当は気にしていないじゃなく、気付いていないだけだろ!とは、今の水谷に突っ込めない二人。





「まぁ、阿部だって三橋を困らせるようなことはしないよね」





既に困ることをしているが、知らない=困っていないってことで良いや、と栄口の意見に流されようと決めた二人。




ごめんな、三橋。

見捨てた訳じゃないんだ。

何も知らない今のお前の幸せ、壊したくないから……。

お前は、西浦の大事なエースだよ。

だから、いざって時には、

本当の本っ当に危機が迫った時には、

絶対に助けるから……ッ!!!



三人は、言い訳を並べつつ心に堅く誓った。


070922 up




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