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SONGS
SOLID GOLD

『SOLID GOLD』


どんなものより強く君を魅せ続けたい
僕以外の誰にも近づいたりしないで



部活の帰り道、阿部君と二人。
自転車を押しながら、他愛のない話をして家路をゆっくりとゆっくりと歩く。
同じ場所で過ごす時間はとても長いけれど、クラスが違うから互いの存在を確認できる時間は意外と短くて。
だから、オレは少しでも阿部君の存在を見つめていられる時間を延ばしたくて、わざと遅々と歩いている。
そんなオレを阿部君は叱りもイラつきもせず、俺に歩調を合わせてくれる。
交わす言葉も、いつもよりゆっくりで。
阿部君の声は、どこまでも優しく深くオレの胸に響いて。
それはオレに対する阿部君の思いの伝え方なのだと思うと、本当に嬉しくて愛しくて…。
たまには、阿部君に言葉にして甘えてみようか。
そんないい気になっていたのを神様にでも見透かされたのだろうか。
携帯電話のバイブレーションが、突然オレをけん制してきた。


「あ、わりィ」

「う、ううん!早く出て、あげて」


阿部君はスポーツバッグから携帯を取り出して、眉を顰めた。
なぜかオレの胸に不安が過る。
けれど、聞きたいことが聞けない。
阿部君は躊躇しているようにも見えたけれど、しつこく振動し続ける呼び出しに観念したらしく携帯電話を広げた。


「はい」

「……」

「―はああ?!
…遠慮しますよ、オレはあんたと違ってそんなに暇じゃないんで。
……だから、明日も早朝練習があるから寄り道どころじゃないって言ってんだろ!!」


それだけ言って、阿部君は乱暴に携帯電話を閉じた。
なんだかすごく怒っているみたいだ。


「ど、したの…?」


怖いのに聞いたのは、自分の予想が外れていて欲しいと思ったから。
阿部君は、ああ、とか言った後何か考えているらしく口を噤むから、オレの胸には更に不安が増していく。


「あのさ、三橋―」


阿部君がオレを呼びかけたところで、再び携帯電話が阿部君を呼んだ。
阿部君は舌打ちをして、またもや乱暴に携帯電話を開ける。


「一体何なんですか?!
…………あんたには関係ねぇよ!
くだんない事でかけてくんな!!
…え?そうなんすか?
…いや、でも……」


さっきまであんなに拒絶していた阿部君が急に引き気味になる。
オレの目の前がどんどん暗くなっていく。


「はあ……。
わかり、ました…」


今度はゆっくりと携帯電話をバッグに戻す阿部君を見ながら、オレの身体の中で真っ黒な感情が渦巻いていくのを感じる。


「誰、から?」


阿部君に誤魔化されたくなくて、自分でも驚くくらい単刀直入に聞く。
阿部君はちょっと間を空けてから、榛名、と一言だけ呟いた。

やっぱり、そうなんだ―。


「榛名さん、なんて…?」

「なんか、シニアの時のメンバーと偶然会って近くのファミレスで屯ってっから顔出せって。
たく、いつも人のことなんかお構いなしなんだよ、アイツは―」

「行く、の?」


ちょっとだけ、阿部君の肩が揺れたような気がした。


「……いや、行かね。
シニアの一人が今度引っ越すらしくて、そんでソイツの送別会を急遽やってるってだけだから」


でも、阿部君。
さっき、『分かった』って言ってた。


「あのな、別にアイツといつも連絡取り合ってるわけじゃねえぞ。
こないだ、武蔵野の試合を見に行ってから勝手にちょくちょくかけてくんだよ」


こっちは迷惑だっての、とか阿部君はぼやいている。
けど、オレは知っているから。
阿部君の根っこにはあの人がいることを。
阿部君が言葉を重ねる度に、渦巻く黒い感情は膨張していく。

オレの脳裏にふと取り止めていた計画が浮かんだ。
今日は両親がいない。
父さんは出張、母さんは親戚の法事の為泊り掛けで遠方へ。
互いの家に家族がいない時は、いつも阿部君と一緒に過ごす。
日頃、表立って互いを求められない分、必死にそれを埋め合わせるように一晩中相手の温度を確かめ合う。
けれど、ここ最近は練習がきつくて他校へ赴いての練習試合も続いていたから、阿部君に負担をかけたくなくて言わなかった。
でも―


「阿部、君」

「…?」


自分でもイヤになる。
だから、彼はきっともっとイヤになるかもしれない。
それでも、オレは止められない。


「今日、家に誰もいないんだ」


信じていないわけじゃない。
けれど、オレと別れた後に榛名さんがまた阿部君を呼び寄せるかもしれない。
その時、阿部君はどうするのだろう。
そんなことを考えながら一晩過ごすのが怖い。
そして、翌日も阿部君を疑い続けるだろう自分が耐えられない。

気がつけば、オレは阿部君の袖を無意識に掴んでいた。
阿部君は、ちょっと驚いた顔をして黙っている。
拒まれたらどうしよう、なんて今頃焦りを覚えて俯いてしまう。

これ以上、阿部君の顔を見られない。
嫌われちゃうかな?呆れられちゃうかな?

阿部君の袖を掴んだ手に、不意に温かい阿部君の手が重ねられる。
顔を上げると、阿部君はひどく優しい顔をしていて。


「いいよ。
行くよ、お前ん家」


そう言ってくれたことが信じられなくてオレの頭がついていかない。


「へ?」

「へって…、な、なんだよ!
お前、誘ったんじゃないのかよ?!」


阿部君が真っ赤な顔をして怒り出す。
オレは慌てて首を縦に振った。


「ほら、行くぞ!」


阿部君はオレより先を歩き出した。
きっと今は顔を見られたくないのだろう。
オレは阿部君に拒まれなかったことに気が抜けてつい笑ってしまった。



「……てめえ、何笑ってんだよ」

「ヒッ、な、何でも、ない!です!!」


オレは急いで弁解して、阿部君のほんの少し後を歩く。
阿部君の背中を見ながら、榛名さんへの嫉妬が溶けていくのを感じる。

これを独占欲って言うのかな?
それとも優越感?
どちらにしても、我ながら身の程知らずだと思う。
いつかきっと離れていってしまう人なのに、自分しか見て欲しくないなんてそんな勝手がいつまで通るのだろう。

けれど、それでも―
今は、オレだけを見て。


071028 up





(本当は2番の歌詞のイメージで阿部バージョンを書こうかかなり迷いましたが、結局三橋にしてしまいました…)


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あきゅろす。
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