SONGS
有罪
『有罪』
巡り逢ったことが
既に有罪なのに―
禁じられた恋―
なんて陳腐な表現だろう。
母親が見ていたドラマの売り文句を聞いて、以前のオレは呆れていた。
恋に他人の許しが必要なんて馬鹿げてる。
今でもそう思う。
けれど。
今のオレたちの関係はどうだろう。
男同士なんて異端には違いない。
ならばこれは『禁じられた恋』、なのだろうか。
やはり、周囲に許しを請わなくてはいけないのだろうか。
そもそも、許す人なんているだろうか。
この恋が禁じられたのなら…。
その時オレは、三橋は、どうするのだろう。
静寂な夜の部室で、三橋を背後から腕の中に閉じ込めたまま、そんな下らないことを考えていた。
急に抱き締めたから、三橋は驚いてしばし硬直していたが、時間が経つにつれ落ち着いたのか、オレの腕を遠慮がちに掴む。
その手に込められた力が愛しい。
もし、三橋と別れる日が来たら…。
「あ、あべく、ん…?」
ずっと黙ったままのオレを、三橋は不思議そうな顔をして振り返る。
いつもはすぐに目を逸らすのに、こういう時は決まって真直ぐな視線を寄越す。
「ど…した、の?」
「三橋…」
もし、二人が一緒にいることが罪なのだとしたら―
「この世界とオレ、お前はどっちを取る?」
「………」
すげぇ格好悪い。
酷い男だよな、オレ。
自分の不安を消したいために、三橋に不安を与えている。
「それ…は、」
「?」
「傍にいちゃ、いけないって こと…?」
三橋の茶色い瞳が揺らめく。
あ…、ダメだ。
「わり、何でもない。
今の忘れて、何でもねぇから」
そう言って、三橋を強く抱き締めた。
あまりにも悲しい顔をするから、オレの方が堪らなくなった。
もういいや、とも思えた。
三橋も、先程よりも少し強く掴み返してくれる。
それで充分だ。
「あ、あべくん」
「…ん?」
「ごめん、ね…」
「何が?」
「…オレ、きっと それで、も 傍にいたい から…。
だって…」
もう、君に巡り逢ってしまったから―
「ごめん…」
そこは謝るトコロじゃないだろ。
おかしくて、嬉しくて、切なくて。
オレは三橋の肩に顔を埋めた。
「いいよ、オレもおんなじだ」
たとえ罪だとしても、離れるなんてできない。
君の身体も、君の温度も、君の声も、手を伸ばせばすぐに届いてしまうから。
071018 up
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