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アベミハ社会人シリーズ
3)



〜idle talk〜



「−さて、残りのケーキだけど」



泉が改まって二人に向き合う。



「どうする?恒例のジャンケンでもいいし、分けっこでも―」

「三橋、阿部にやれば?」



田島の唐突な発言に三橋は顔を沸騰させる。



「あ〜、田島それはダメ。てか、やらなくて良い」

「えっ、何で?」

「こんなのより、三橋が時間かけて選んできたプレゼントの方がいいに決まってんじゃん」

「お〜っ、三橋プレゼント渡すんだ?!」

「え?え〜っ?!!」



三橋はパニックになる。



「あれ?こないだ、渡したいって言ってただろ」

「そ、それはっ…」

「渡しちゃえよ、三橋!」

「でも…」

「『あべ、君…迷惑、じゃない、かな?』ってか?」



泉が三橋の真似をして、わざと茶化す。



「い、泉君!」

「ちゃんと渡せよ、大丈夫だから」

「で、でも…」

「渡せよ、三橋!アイツ、ゲンミツに喜ぶって!!」



三橋は今になっても、まだ決めきれずにいた。
確かに、最近は挨拶もちゃんとできるようになったし、エレベータや食堂なんかで一緒になれば阿部も話しかけてきてくれる。
けれど、それは同じ職場で働く者として当然のことだし、そんなことくらいでズに乗って嫌われたら、と思うとためらってしまう。
実は、既にプレゼントも買ってしまったというのに…。



「カムフラージュが欲しいなら、この前の礼ってことにすれば?」



泉が妥協案を提示してくれる。



「この前………?あっ…」



阿部にカイロをもらった日のことを三橋は思い出した。
阿部の手の温度を感じた瞬間がフラッシュバックして、顔まで熱くなる。


もしかしたら、あの時のように笑ってくれるだろうか。


三橋は、そんなことを考え出した。



「アイツにはそんなもん無い方が良いと思うけどね」

「お、オレ…渡して、みる !」



そのカムフラージュがあれば、阿部に不自然に思われず渡せるかもしれない。
三橋は、急に元気が湧いてくるのを感じた。



「お前ら…、何やってんだ?」



3人が振り返ると、たまたまこのフロアーに用事があって訪れた花井が呆れ顔でこちらを見ていた。



「おっ、良いトコに来たな花井。食べてく?」



泉がケーキを差し出す。



「質問の答えになってねぇよ、泉…」

「遠慮すんなって。オレらさっき食ったし!」



笑顔で応える田島と何度も頷く三橋を見て、花井は頭痛を覚える。



「もしかしなくても、クリスマスパーティか?」

「ああ、夜行く店にはケーキないし、持ち込み不可だしな」

「…本当に好きだな、お前ら」

「梓も好きだろ?ほら、食べろよ!」

「オレは仕事中だから良いよ!てか、職場で名前呼びすんなって何回も言ってっだろ!!!」

「ってェ〜!殴んなくてもいーじゃん!」

「ところで、花井係長。お仕事中に何なんですが、」

「な、なんだよ」



泉の改まった呼び方に、花井は身構える。



「本日夕方のご予定は?」

「なんだよ、気持ち悪いなぁ。別に、いつもの残業だよ」



声なんかかけてないで真直ぐ自分のフロアーに戻れば良かったと、花井は今更ながら後悔する。
泉の無垢を装った表情が、非常に恐ろしい。



「じゃ、早めに切り上げてオレらと忘年会しませんか?」

「………」



なんだよ、棒読みでそのセリフは?!!


思い切り突っ込みたい気持ちをどうにか理性で押さえ込み、一つ咳払いをしてから、花井は平常心を取り戻そうと試みる。



「…悪いけど、パス」

「え〜っ?!なんでだよ、やろうぜ忘年会!!!カニ鍋なんだぜ!!」

「だから、お前は煩いって!おい、なんか企んでんだろ、泉」



疑われた泉は、変わらず平然としながら白状する。



「花井係長は今月頭にボーナスもらいましたよね?」

「やっぱそれかよ?!」

「だって、オレらにそんなもん一銭もないもん」

「知らねぇよ。オレだってなぁ、金の使い道はちゃんと―」

「セコいよなぁ。管理職クラスの賞与もらっても、可愛い部下達に御馳走してやろうなんて気持ち、花井係長は持ち合わせていないんだ」

「お前らは部下じゃねぇだろ!」



拗ねたような顔をする泉に言い返してから、花井ははっとした。
童顔の泉相手だと、まるで子供を苛めているように思え、花井に妙な罪悪感が湧いてくる。



「ホント、梓はケチだよな!幼馴染みのオレが飢えてるってのに〜!!!」



田島が騒ぐものだから、周囲の視線が更に集中する。
このままでは、冷血係長のレッテルを貼られ兼ねない。



「あ〜、分かったよ!行きゃいいんだろ!!!
そのかわり、カンパは少しだかんな!」

「さすが花井係長、半分持ってくれりゃ十分」

「は、半分?!」

「自分の分とオレ達3人の半分。
よろしく、花井係長」

「ちょっ、待てよ!それってどんだけの予算だよ?!」

「大丈夫、銀座のクラブで遊ぶより遥かに安いだろ」

「えええぇ?!梓、んなトコ行ってんのかよ!」

「遊びじゃなくて接待!!!くそ〜っ、お前ら覚えとけよ!」

「もちろん。花井係長のご恩は決して忘れません」



最後の最後に見せた泉の悪魔のような笑みに寒気を感じた花井は、それ以上何も言えなくなった。



「良かったな、三橋!今日のカニ鍋楽しみだよな!!」

「う、うん!オレ、カニ好きだ!」



阿部にプレゼントを渡したら、皆と一緒にパーティーを楽しもう。うまくいったら、阿部も誘えるかもしれない。
こんなに前向きなことが浮かんでくるのは、クリスマスだからだろうか。
三橋のテンションは確実に上がっていった。




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